5GのコミュニティにPAWRの力を - ホワイトハウスOSTPとNSFが、ワイヤレス通信の研究における産学のギャップを解消

2016年7月、「ホワイトハウスOSTP(White House Office of Science and Technology:ホワイトハウス科学技術政策局)」と「NSF(National Science Foundation:米国科学財団)」は、設立に携わった26社とともに、4つのテストベッドを全米に設置する考えがあることを明らかにしました。この取り組みは「PAWR(Platforms for Advanced Wireless)」と名づけられ、1年間にわたって検討が重ねられました。2017年の初頭、ワイヤレス向けの先進的なテストベッドと、それを利用して行われる次期研究の監督/管理を担当するPPO(PAWR Project Office)として、US Ignite社とノースイースタン大学が選定されました。

ワイヤレスコミュニティ全体にとって重要なことは、それらのテストベッドが非常に大規模であるということです。それらは、現実の高度なワイヤレスネットワークに非常によく似た、複製とも呼べるようなものになっています。ただ、それらのネットワークは、実際に配備されているネットワークと関連を持つこともあるため、複製と呼ぶのは適切ではないかもしれません。その目的は、従来とは異なる革新的な事柄を実現することです。例えば、現在の4Gのネットワークはもちろん、5Gで計画されている以上の高度なアプリケーション向けにアーキテクチャやビルディングブロックを構築するといった具合です。達成すべき目標は、教育機関/大学で行われる研究と、「the valley of death(死の谷)」とも呼ばれる、企業が出資する研究の間のギャップを埋めることです。

学術研究のコミュニティは、ワイヤレスの研究を進めるために長年にわたって革新的なアイデアを生み出し続けてきました。しかし、そうしたコンセプトの多くは、コストやリソース、あるいは時間的な理由からシミュレーションの段階で終了してしまっています。新規のアイデアについて、シミュレーションだけでは正確にモデル化できないシステムレベルの性能を評価するには、現実世界の設定に基づいて試作を実施する必要があります。一方、産業界の研究者は、直接事業に結びつく製品開発を目標にしなければならないという制約を受ける傾向があります。ウォールストリートがけん引する現在のビジネス環境では、支出については細かい調査が行われます。また、研究に対して大規模な投資を行う場合には、短期間で成果を上げることを最優先の重点項目とするよう厳しい査定が実施されます。

大規模な4つのテストベッドを構築することによって、産学の研究者らは革新的な考えについてスムーズに検証するためのプラットフォームを得たことになります。それにより、ワイヤレス通信の研究を次の段階に進めたり、システムレベルやネットワーク全体の複雑な問題を解決したりすることが可能になります。NSFと26の企業の貢献してくれたことから、テストベッドを利用するためのリソースが確保されます。また、都市の行政機関や地方自治体からの委託を受けて、既存のインフラを利用できる特別な機会を得たり、広大な地域に対する大規模な実装を実現できたりする可能性が生まれています。

2017年6月1日、国内のチームがPPOに対し、レビューとフィードバックのための早期提案書を正式に提出しました。ただ、2017年秋までに正式な裁定が下されることはないでしょう。それでも、この取り組みは、ワイヤレス通信に関する研究において直面する大きな課題を解決するための革新的なアプローチであることに間違いはありません。したがって、次のステップには大いに期待したいところです。

著者プロフィール

James Kimery
National Instruments(NI) RF研究/SDR担当ディレクタ

今回の記事は「Microwave Journal」の筆者によるブログ(2017年6月27日に掲載)を邦訳したものです