小惑星リュウグウは、約46億年前の太陽系誕生期に形成されたより大型の母天体が破壊された破片からなる。母天体の内部には水が存在していたが、時間の経過とともに凍結や蒸発により減少していったとされ、その際、残された濃厚な塩水から塩結晶が沈殿し、窒素化合物も高度に濃縮されたと考えられている。
京都大学と分子科学研究所、広島大学、東京科学大学、愛媛大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)の6者は、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウ試料の詳細な分析を実施。その結果、炭酸ナトリウムや塩化ナトリウム(岩塩)といった水に溶けやすい塩結晶の周囲に、窒素を含む塩の結晶(硝酸塩)や、アンモニア、炭素と窒素が強く結合した有機物などの窒素化合物が集積しているのを見つけたと、9月3日に共同発表した。
同成果は、京大 白眉センター/理学研究科の松本徹特定助教、分子研の湯澤勇人主任技術員、広島大の小池みずほ准教授、科学大の癸生川陽子准教授、京大の野口高明教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の矢田達主任研究開発員、JASRIの菅大暉研究員、同・伊奈稔哲研究員、物質・材料研究機構の佐久間博主任研究員、愛媛大の白勢洋平講師、京大 理学研究科の北村悠樹大学院生(研究当時)、同・伊神洋平准教授、同・三宅亮教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学を扱う論文誌「Nature Astronomy」に掲載された。
リュウグウ試料内の“窒素の居場所”に注目
リュウグウ試料からは、アミノ酸や核酸塩基など、地球の生命を構成する有機物が発見されており、母天体の水に満ちた環境がこれら化合物の合成を促したと考えられている。
有機物において炭素の次に重要な元素の1つが窒素であることから、研究チームは今回、リュウグウ試料内の同元素の存在領域に注目し、生命の材料につながる成分が天体のどのような環境で形成されやすかったのかを調べることにしたという。
今回の研究成果
リュウグウ試料の粒子は、岩石と水が反応して生まれた粘土鉱物が大部分を占める。その一方で、試料中にはまれに、炭酸ナトリウムや岩塩などを含む塩結晶の脈が含まれることが発見されていた。そこで今回の研究では、これまでにほとんど調べられていないリュウグウの塩結晶に注目。まず、塩結晶を含む粒子が吸収する赤外線スペクトルが分析された結果、アンモニアが確認された。
次に、塩結晶の周囲から切り出した薄片試料において、化合物の種類が調べられた。塩結晶の主成分である炭酸ナトリウム付近の粘土からは、アンモニアを示すX線の吸収が確認された。粘土鉱物は、ケイ素と酸素を骨格とする層が重なる構造を持つ。その層間に、アンモニア由来の陽イオン「アンモニウムイオン」(NH4+)が入り込んでいると考えられている。
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(a)ナトリウム(シアン)、マグネシウム(マゼンタ)、硫黄(黄色)の分布が重ねられた、リュウグウの砂の透過型電子顕微鏡画像。星印が指す水色部分が炭酸ナトリウム。六角形が指す黄色部分は硫化鉄。四角が指すマゼンタ色部分が粒子全体に広がる粘土鉱物 (b)粘土(サポナイト)の拡大像。粘土を形作る層が確認できる (c)粘土部分から得られたX線吸収スペクトル。横軸は照射エネルギー、縦軸はX線の吸収強度。アンモニウム(NH4+)とアンモニアが測定中に分解し生成した窒素ガス(N2)、窒素を含む有機物(ニトリル化合物もしくはシアン化合物:C≡N)のピークが確認できる(京都大学提供)(出所:科学大Webサイト)
一方、塩を含まない別の試料からは、窒素の明瞭な特徴は確認されなかった。この結果は、アンモニアがリュウグウのどこにでも同様に存在するのではなく、塩結晶の近辺に集中していることが示されている。また、炭素と窒素が強く結合したニトリル化合物もしくはシアン化合物も塩結晶の周囲に多いことが判明した。また、炭酸ナトリウムの中には、窒素含有塩である硝酸ナトリウム結晶も発見された。
太陽から遠ざかるほど寒冷となるため、地球軌道近辺の真空中では気体となる物質であっても、そこから以遠は固体(氷)として存在できる「スノーライン」が存在する。水のスノーラインは小惑星帯(太陽からの距離約2.7〜3天文単位)、アンモニアは木星軌道の外側〜土星軌道付近(約7〜10天文単位)、二酸化炭素(CO2)は土星〜土星・天王星間(約10〜15天文単位)と見積もられている。
リュウグウ試料からは水、アンモニア、CO2の存在が確認されており、このことから母天体がCO2スノーラインよりも外側で誕生したことが推測される。そして液体の水が存在していたこと、現在のリュウグウの軌道が地球〜火星間という水のスノーラインよりも大きく内側に位置することから、母天体が形成後に太陽系の内側領域へ大移動して水が液体となった後、天体衝突による破壊と破片の再集積を経て、現在のリュウグウが形成されたと推定された。
母天体内部が温められると氷が融けて液体の水が生まれ、岩石と反応して粘土などの新しい鉱物が生成された。その後、天体の内部が冷えると、水は再び凍結や岩石の割れ目からの蒸発によって減少。残った少量の水に溶けていた成分が集積していった。
また、水が凍る際、氷に入りにくい塩は液体の水側に残る。炭酸ナトリウムなどの塩結晶は、こうした現象によって高濃度の塩水が最後に消失する際に形成されたと推測された。そして、アンモニアなどの窒素化合物もまた、濃厚な塩水に溶けていた成分として残されたことが考えられるという。
今回発見されたアンモニアなどの反応しやすい窒素化合物は、アミノ酸や核酸塩基など、生命の材料となる有機物が水中で合成される際の主な原料となる。リュウグウの母天体では、これらの窒素化合物が天体形成初期に氷や有機物などとともに取り込まれ、一部は水がなくなる最終段階まで残っていたことが推測された。さらに、水が減って窒素化合物や有機物が濃縮した塩水では、成分同士が出会いやすくなり、化学反応が進みやすくなった可能性があるという。今回の研究は、母天体内部の「最後の塩水」が、生命の材料を合成するのに有利な環境だった可能性を示すものとなった。
太陽系には、準惑星セレスなど、地下に塩水が存在することが予想される天体が存在する。また天文観測により、アンモニアを含む小惑星が次々と発見されている。特に、セレスではアンモニアを含む粘土や炭酸ナトリウムが確認されており、リュウグウと類似した塩水環境の存在が示唆されている。リュウグウ母天体のような有機物を育む濃厚な塩水環境は、太陽系のさまざまな天体に存在する可能性があり、将来の探査が期待されるとしている。




