はじめに

FPGAやCPU、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)、GPU(Graphics Processing Unit)、SoC(System on Chip)などが電気的な負荷になる場合、電源のシーケンスを適切に制御しなければなりません。つまり、複数種の電源電圧をあらかじめ定義された順序で印加(オン)/遮断(オフ)する必要があります。適切なシーケンスが守られていない場合、負荷の機能が制限されたり、不具合が生じたりする可能性があります。極端なケースでは、負荷に損傷が及んでしまうかもしれません。このような問題を防ぐために使われるのがシーケンサです。

シーケンス制御の例

一般に、各電圧コンバータが生成する電圧を別のコンバータのイネーブル・ピンに供給するということを繰り返せば、複数の電圧コンバータを順番に起動することができます。しかし、この方法を採用するためには、各電圧コンバータとして、イネーブル・ピンのしきい値電圧の許容範囲が狭いものを使用しなければなりません。また、この方法では、各電源電圧を所定の順序でオフにするのは困難です。意図したタイミングで各電源を制御できるようにしたい場合には、煩雑な回路を追加しなければなりません。このような課題が存在することから、電源のシーケンス制御専用に開発されたシーケンサが広く使われています。図1に示したのは、そのようなシステムの基本的な構成例です。DCDC1からDCDCnまでの電圧コンバータは、シーケンサによってそれぞれのイネーブル・ピンが制御されることにより、適切な順序でオン/オフします。

  • あらかじめ決められたON/OFFシーケンスを必要とする複数の負荷のための電源回路コンセプト

    図1. あらかじめ決められたON/OFFシーケンスを必要とする複数の負荷のための電源回路コンセプト

シーケンサは、システム内の各電源が立ち上がる前に動作している必要があります。そのため、システムに元々存在する様々な電源電圧を使用して動作させられるよう、シーケンサは広い入力電圧範囲を備えていることが望ましいと言えます。

シーケンス制御の機能は、様々な方法で実現できます。例えば、マイクロコントローラ(マイコン)、小型でシンプルなFPGA、プログラムが可能なメモリを備える専用のシーケンサ、シンプルなシーケンサなどが使われます。ただ、そうしたソリューションの多くには好ましくない制約が存在します。

まず、マイコンを使用する方法では、マイコンを動作させた上で所定のプログラムをロードする必要があります。小型の制御用FPGAや、プログラム可能なメモリを備えるシーケンサを使用する場合には、それらを動作させる前にプログラミングを実施しなければなりません。そのプログラミングは、各デバイスを基板にはんだ付けする前に実施することもできますし、基板にはんだ付けされた状態で最初に電源を投入する前に実施することも可能です。いずれにせよ、相応の労力とコストがかかることは間違いありません。

シーケンス制御用のソリューション

上述した課題を解決するために、製造工程におけるプログラミングを必要としないソリューションが開発されました。ここで取り上げるシーケンサ「ADM6840」では、抵抗とコンデンサを用いるだけで動作の設定が行えます。また、同ICは2.7V~15Vという非常に広い入力電圧範囲に対応しています。そのため、シーケンサ専用の電源を追加することなく、3.3V、5V、さらには12Vの電源電圧を用いて直接動作させることが可能です。

図2に、ADM6840を使用する場合の回路の構成例を示しました。この回路では、シーケンサの機能に加え、もう1つの有用な機能を利用できます。それは、V1からV8までの各電圧を個別に監視できるというものです。すべての電圧が所定の値に達した場合だけ、電源の準備が整ったことを表すパワーOK(POK)信号が出力されます。この電圧の監視においては、その精度が重要になります。DC/DCコンバータによって生成される各電源電圧の総合的な精度を考える上で、監視精度も重要な要素になるからです。ADM6840の場合、電圧の監視精度として±0.8%という値を実現しています。

  • シーケンサとしてADM6840を使用する場合の回路構成

    図2.シーケンサとしてADM6840を使用する場合の回路構成。同ICを使用すれば、プログラミングを実施することなく、最大8系統の電源電圧のシーケンス制御に対応できます。また、各電源電圧を監視することも可能です

回路を確実に保護するためには、高い信頼性で電圧監視用のICを動作させることが不可欠です。回路によってはかなり高温になることもあるので、それに対応できるICが必要になります。ADM6840の場合、-40℃~125℃の温度範囲で動作することが可能です。チャンネルの数が8を超える場合には、複数個のADM6840を連動させることで対応できます。

アナログ・デバイセズ(ADI)は、SPICEベースのシミュレータ「LTspice」を無償で提供しています。これを使用すれば、ADM6840の機能を簡単に評価できます。LTspiceには、同ICを使用するサンプル回路が用意されています(図3)。この回路図を用いることにより、様々な設定でシミュレーションを実行することができます。

  • LTspice上で作成したADM6840用のサンプル回路

    図3. LTspice上で作成したADM6840用のサンプル回路。同ICのシーケンサ機能や監視機能のシミュレーションを実施できます

まとめ

シーケンス制御の機能は、適切な構成要素を選択すれば容易に実現できます。専用シーケンサを採用した場合、ほとんどの用途では同IC用の電源を追加する必要はありません。また、時間のかかるプログラミングの作業も不要になります。そのため、信頼性の高いシーケンス制御を実現する回路を短時間で設計できます。

本記事はAnalog DevicesのTECHNICAL ARTICLE「Simple Sequencing Circuit」を翻訳・改編したものとなります