この環境技術分野ニュースのまとめ

・Helical Fusionが経産省のフュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金に条件付採択
・2027年度中にHelix HARUKAのコイル通電試験、2030年ごろに主要技術の統合実証を計画
・Helix KANATAで正味電力50MW級、1年間の連続運転、稼働率80%の商用化前発電実証を目指す

Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は9月1日、経済産業省の「令和7年度補正フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金」の条件付採択事業者に選出されたことを受け、2030年代の実用発電に向けて進める「ヘリックス計画」の最新状況に関する説明会を開催した。

同補助事業は、2030年代にフュージョンエネルギー(核融合)による発電実証を実現するため、異なる炉心方式を採用する民間企業の技術開発をマイルストーン型で支援するもの。2029年2月末までに、採択事業者全体で総額600億円規模の補助が想定されているが、正式な採択や個別の交付金額は今後決定される。

  • フュージョンエネルギーに対する日本政府の支援策

    フュージョンエネルギーに対する日本政府の支援策。発電実証推進事業では600億円規模の補助が見込まれ、2040年に向けた官民投資ロードマップでは3兆1000億円以上の投資を目指す (資料提供:Helical Fusion)

2030年代の発電実証を支援するマイルストーン型補助金

今回の条件付採択は正式な交付決定ではなく、事業計画や技術内容、達成目標、他社との連携などについて、事務局側から示された条件を採択候補事業者が調整している段階となる。

Helical Fusionによると、技術に関する補足説明やマイルストーンのすり合わせ、ほかの企業と連携可能な領域の検討などが求められており、同社は正式採択に向けた回答を進めているという。手続きには1カ月程度かかる可能性があり、正式採択と交付決定後に、具体的な事業計画や交付金額などをあらためて説明する予定としている。

同補助事業は個別の要素技術に対する研究開発支援ではなく、発電実証から商用化前発電実証、社会実装へつなげることを前提とした制度となる。複数の炉心方式を並行して支援し、設定したマイルストーンの達成状況や、発電プラントとしての実現性を踏まえて継続可否を判断する。

  • フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金の概要

    フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金は、個別の要素技術ではなく、発電実証から商用化前発電実証、社会実装へつなげるプラント開発を支援する (資料提供:Helical Fusion)

Helical Fusionは、方式間の比較では、一時点の資金調達額や個別技術の性能だけでなく、商用化前発電実証までに必要となる総投資額と、その投資によって実現できる正味出力、連続運転時間、稼働率などを合わせて評価する必要があるとする。

正味発電、定常運転、保守性からヘリカル方式を選択

Helical Fusionは、フュージョンエネルギーを商用発電所として利用するための要件として「正味発電」「定常運転」「保守性」の3つを掲げる。

  • Helical Fusionが商用発電所の成立に必要とする3要件

    Helical Fusionが商用発電所の成立に必要とする3要件。プラント外部へ電力を供給する正味発電、1年を通じた定常運転、運転後に機器を交換できる保守性を挙げる (資料提供:Helical Fusion)

正味発電は、プラントの運転に使用する電力を上回る電力を外部へ供給すること、定常運転は年間を通してプラズマを安定して維持し発電を続けること、保守性はプラズマに近い位置で使用されるブランケットなどを交換できる構造を指す。

同社は、現在入手可能な技術を用いて3要件を満たし、経済性を備えた発電所へ到達できる可能性が高い方式として、二重らせん状の超伝導コイルでプラズマを閉じ込めるヘリカル方式を採用した。

欧米で開発が進むモジュラー型ステラレーターも定常運転に適する一方、形状が異なる複雑なコイルを狭い間隔で配置するため、コイル内部にあるブランケットの交換が難しいという。これに対してヘリカル方式は、二重らせん状のコイル間に空間を確保でき、交換が必要なブランケットを外部へ取り出しやすいことを、発電所としての利点に挙げている。

Helix HARUKAで発電プラントの主要技術を統合実証

ヘリックス計画では、最終実証装置「Helix HARUKA」と、発電初号機「Helix KANATA」の2段階で実用発電を目指す。

  • ヘリックス計画における実用発電までのロードマップ

    ヘリックス計画における実用発電までのロードマップ。最終実証装置「Helix HARUKA」で工学技術を統合実証した後、発電初号機「Helix KANATA」の設計・建設へ進む (資料提供:Helical Fusion)

岐阜県土岐市の自然科学研究機構 核融合科学研究所(NIFS)の敷地内では、Helix HARUKAの予備試験にあたるフェーズ1の建設が進められている。現在は二重らせん状の高温超伝導コイルの組み立てが進んでおり、2027年度中にコイルへ通電し、磁石として必要な性能が得られるかを確認する計画で、その後、装置へブランケットや加熱装置、燃料循環、真空容器、プラズマ計測などを組み込み、2030年ごろに主要コンポーネントを同時に動作させる統合実証を行うとしている。

  • 岐阜県土岐市で建設が進む最終実証装置「Helix HARUKA」

    岐阜県土岐市で建設が進む最終実証装置「Helix HARUKA」。二重らせん状の高温超伝導コイルを組み立て、将来の発電プラントに必要な製造・統合技術を実機で検証する (資料提供:Helical Fusion)

Helix HARUKAでは、完成した個別技術を評価するだけでなく、立体的な高温超伝導コイルを実際に製造・組み立て、コンポーネント間の寸法や接続方法、施工手順などを確認する。建設を通じて得られた知見を次の装置設計へ反映し、約1兆円規模の投資となるHelix KANATAへ、製造上の不確実性を持ち越さないことを狙う。

同社によると、実際の組み立てを通じ、部品間のすり合わせやケーブルの製作方法、寸法の最適化など、設計データだけでは把握できなかった改善点が見えてきたという。これらをHARUKAの後続工程やKANATAへ反映することで、建設期間とコストのさらなる最適化を図る。

炉心設計と一体でブランケットを開発

Helix HARUKAで統合する主要技術の1つが、プラズマに面して熱や中性子を受け止めるブランケット兼ダイバータである。

ブランケットは、プラズマから生じる熱を発電に利用できる形で取り出すほか、中性子を遮蔽する構造体、核融合燃料となるトリチウムの生成、中性子の増倍など、複数の役割を担う。

  • ブランケットの設計を構成する機能と技術の選択肢

    ブランケットの設計を構成する機能と技術の選択肢。プラズマ対向壁、熱取り出し、構造・遮蔽、中性子増倍、燃料生成の方式を、炉心方式やプラント全体の設計に合わせて組み合わせる必要がある (資料提供:Helical Fusion)

使用する壁や冷却媒体、構造材料、中性子増倍材、燃料生成材などには複数の選択肢があり、その組み合わせは炉心方式やプラント全体の設計に左右される。このため、汎用部品として外部から調達することは難しく、炉の開発事業者自身が発電プラントに合わせて設計する必要がある。

Helical Fusionは、固体壁と液体金属を組み合わせた独自のブランケットを採用し、熱の取り出し、トリチウムの生成、構造・遮蔽、保守交換を一体で成立させる技術を開発している。最終的には高温超伝導マグネットやプラズマ、燃料循環などと同じ装置へ組み込み、技術間の干渉や接続上の課題を確認する。

KANATAで正味電力50MW級、1年間の連続運転へ

Helix HARUKAで発電前の統合実証を終えた後は、発電初号機「Helix KANATA」の建設へと進むこととなる。

Helix KANATAでは、最初の発電実証として正味電力を外部へ供給し、1日程度の連続運転を行う計画。その後、同じプラントを用いて商用化前発電実証へ移行し、正味電力50MW級、1年間の連続運転、稼働率80%での運転を目指す。

  • Helical Fusionが示した発電実証から社会実装までの計画

    Helical Fusionが示した発電実証から社会実装までの計画。Helix HARUKAによる統合実証を経て、Helix KANATAでは正味電力50MW級、1年間の連続運転、稼働率80%の商用化前発電実証を目指す (資料提供:Helical Fusion)

ヘリカル方式では、プラズマを維持するためのパルス運転を必要としないことから、原理上は連続運転時間を制限する要因が少ない。Helix HARUKAでも短くとも24時間、使用可能な電力などの条件が整えば数日から1週間の連続運転を検討しているという。

同社はHelix HARUKAの建設に約500億円、Helix KANATAには約1兆円が必要になると試算する。HARUKAで主要技術と製造・統合工程を事前に検証することで、KANATAを大幅改修したり、別の実証炉を追加建設したりすることなく、発電実証から商用化前発電実証まで進める計画である。

国内30社超とフュージョン産業の構築を推進

Helical Fusionは、Helix HARUKAの製造と主要コンポーネントの開発を、国内13都道府県にまたがる30社超の企業と進めている。

  • Helix HARUKAの製造やコアコンポーネントの開発に参加する国内企業

    Helix HARUKAの製造やコアコンポーネントの開発に参加する国内企業。Helical Fusionは13都府県の約30社と連携し、フュージョン発電のサプライチェーン構築を進めている (資料提供:Helical Fusion)

フュージョン発電所は、高温超伝導マグネット、ブランケット、真空容器、加熱装置、燃料循環、熱交換器、タービン、発電機などによって構成される総合エネルギープラントとなる。材料や部品だけでなく、精密加工、溶接、組み立て、施工、保守など、日本企業が強みを持つ幅広い産業分野の参画が見込まれる。

政府はフュージョンエネルギーを重点投資対象の1つに位置付け、2040年に向けて官民合わせて3兆1000億円以上の投資を目指している。今回の補助事業も、国内に技術や製造能力、サプライチェーンを構築し、発電実証後の産業化へつなげる狙いを持つ。

Helical Fusionは、条件付採択から正式採択、交付決定へ向けた調整を進めるとともに、Helix HARUKAの建設とブランケットなどの開発を継続する。実用発電の3要件を満たすプラントを2030年代に実証し、ヘリカル方式を軸とする日本発のフュージョン産業を構築していくとしている。