京都には多くの寺院や神社が存在し、その前庭や境内には池や水盤、水路などの水場が手厚く維持管理されている。しかし、水場を生活の場とするカエルなどの両生類にとって、このような場がどのような環境であるのかについては、これまで十分に調査されていなかったという。
そこで京都大学(京大)は、京都市東山地域の31施設にある80水域で目視と鳴き声を確認する調査を実施。うち43水域では環境DNA解析も併用し、両生類の確認状況と水域環境との関係を調査した結果、7種(在来6種、外来1種)のカエル類と1種のイモリの存在が確認されたと、8月20日に発表した。
また、水域の種類、水源や流れ、森林からの距離、水辺の構造、コイの有無といった環境要素と、各種の確認状況との間には、種ごとに異なる相関が認められたことも併せて発表された。
同成果は、京大大学院 人間・環境学研究科の大越香江大学院生、京大大学院 情報学研究科の辻冴月助教、京大 地球環境学堂の西川完途教授らの研究チームによるもの。詳細は、都市環境における生態系や生物多様性、人間活動との相互作用を扱う専門論文誌「Urban Ecosystems」に掲載された。
京都の「水景」と両生類の関わりを調べる
世界的に多くの動植物が絶滅の危機に瀕しているが、カエルなどの両生類も現在、都市化の進行に伴う生息地の分断や水辺の消失に加え、外来種や捕食性魚類による悪影響を受けている。
その一方で、都市内には公園や庭園、寺社、学校などに、人工的に造られ人の手で管理されている小さな水辺が存在する。こうした都市内の水辺が生物多様性を支える可能性はこれまでも研究されてきたが、寺社や庭園のように長年にわたり歴史的・文化的に管理されてきた「水景」において、両生類に関する体系的な調査研究は限られていたとする。
歴史的な水場が多く残る京都においても同様であり、これらの池や水路などは景観や文化財として大切に管理されてきたものの、都市に生息するカエル類にとってどのような役割を持つのかは不明な部分が多かった。特に、文化的価値を守るための管理と生物の生息場所としての機能を両立させる手法は、都市生態学と文化的景観の保全をつなぐ重要な課題となっている。
そこで研究チームは今回、京都の寺社や関連施設にある水域を、文化と生物多様性が重なり合う「生物文化的水景」として捉え、これらの水辺が都市の両生類にどのような生息環境を提供しているのかを調べることにしたという。
今回の研究成果
今回の研究では、京都市東山地域の寺社や31施設における80水域を対象とし、現地で成体、卵、幼生などを確認する目視調査と鳴き声調査が行われた。さらに、そのうち43水域では環境DNA解析も実施された。直接見ることが難しい種や調査時期によって見つけにくい種が存在するため、複数の調査手法が併用された。
この調査の結果、確認された両生類は以下の通り。
- カエル類:7種
- 在来6種(タゴガエル、ツチガエル、トノサマガエル、ニホンヒキガエル、ヒガシニホンアマガエル、モリアオガエル)
- 外来1種(ウシガエル)
- イモリ:1種(アカハライモリ)
目視・鳴き声調査と環境DNA解析が共に実施された43水域においては、両手法による比較が行われ、たとえばタゴガエルは12水域で環境DNAのみから検出された一方で、繁殖の確認には卵や幼生などを直接確認する現地調査が不可欠であり、両手法が相補的に働くことが確認された形だ。
また、水域の種類、水源、水の流れ、森林からの距離、水辺の構造、コイの有無なども記録された。これらの条件と種の検出状況との関係を解析し、どのような水域でどの種が確認されやすいかが検討された結果、水環境や周囲の要素と各種の確認状況との間に、種ごとの異なる応答関係が特定された。
今回の成果の意義は、寺社の池や水路が単なる景観要素にとどまらず、都市の両生類を支える貴重な生息場所になり得ることが示された点にあるという。加えて、現地調査に環境DNA解析を組み合わせることで、文化的に管理された水辺の生物相を多面的に評価できることも裏付けられた。
長年にわたり手入れされてきた小規模な水辺が、今回の研究により、文化財や景観の価値に加え、カエル類をはじめとする水生生物の生息環境としても機能していることが証明された。この知見は、学校や公園の池など、都市にある他の人工・半人工水域の管理にも応用できる可能性があるとした。
さらに、自然共生サイトやOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)の概念とも符合するものであり、文化的に維持されてきた空間の生物多様性の価値を評価し、今後の保全や管理につなげるための手がかりとなり得るとしている。
一方で、今回の手法には限界もあるという。調査対象は京都市内の特定地域に限定され、施設ごとの事情により、調査時期や回数が完全には揃っていない点が挙げられる。また、環境DNA解析は存在検出を補う有効な方法ではあるものの、生息数や繁殖の有無までを直接示すものではない。そのため、今後はより広域かつ多角的な継続調査を実施し、今回見られた種ごとの環境選好性を検証する必要があるとした。
社会的には、文化的景観の保持と生物の生息地の保全をいかに両立するかが課題となる。魚類の導入や水源・水流の制御、護岸の改修などは景観維持に必要な場合がある一方、両生類の生息環境に及ぼす影響も懸念される。今後は、施設管理者や研究者、地域社会が連携し、文化的価値と生物多様性の総括的な配慮に基づく水辺管理を進める必要があるとしている。

