弘前大学は6月5日、遺伝子組換え技術を駆使して、アフリカツメガエルの四肢形成でカギになると予想されるゲノム領域の働きを可視化した結果、幼生では再生中の四肢でこのゲノム領域が活性化するのに対して、成体では活性化しないことがわかったことを発表した。

同成果は、弘前大大学院 農学生命科学研究科の多田玲美氏、同・横山仁准教授、東北大学大学院 生命科学研究科の東舘拓也氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、発生生物学に関する全般を扱う学術誌「Developmental Biology」に掲載された。

イモリやサンショウウオは、生涯にわたって四肢を切断されても再生できる高い再生能力を有することで知られている。しかし同じ両生類でも、アフリカツメガエルの場合は、幼生(オタマジャクシ)の時は四肢が切断されても元通りに再生するが、成体になってしまうと1本の棒状軟骨しか再生できない。幼生の時は四肢の親指側を前、小指側を後ろとする前後軸に沿ったパターンも元通りになるものの、成体ではそれが失われてしまうのだ。

  • 両生類における四肢再生のプロセス。

    両生類における四肢再生のプロセス。(出所:弘前大Webサイト)

脊椎動物の四肢で前後軸が作られる過程においては、後ろ側で働く遺伝子「sonic hedgehog」(shh)が重要だ。ツメガエルは、幼生では切断面に作られる細胞集団の再生芽がshhを発現するのに対し、成体の再生芽はshhを発現しない。成体の切断された四肢が完全に再生できない理由として、このshhの欠如によって前後軸を再現できない可能性が以前から指摘されてきたが、なぜ成体ではshhを発現できないのか、その理由は不明だったという。

  • アフリカツメガエルの四肢における再生能力の低下。

    アフリカツメガエルの四肢における再生能力の低下。(出所:弘前大Webサイト)

近年の研究から、四肢におけるshhの発現は、同じ染色体上に存在するゲノム領域「四肢エンハンサー」によって調節されることがわかってきた。さらにツメガエルにおいては、幼生では四肢エンハンサーのDNAが低メチル化状態にあるのに対して、成体では高メチル化状態になることから、DNAのエピジェネティクス制御によって四肢エンハンサーが不活性化されることで、成体の四肢ではshhを発現できなくなっている可能性が示唆された。しかし、両生類の四肢再生におけるshh四肢エンハンサーの活性化の有無についての検証はこれまで行われておらず、またエンハンサーの活性化と四肢の再生能力との対応についても未解明だったとする。

  • 四肢でのshh発現を制御する四肢エンハンサー。

    四肢でのshh発現を制御する四肢エンハンサー。(出所:弘前大Webサイト)

そこで研究チームは今回、shh四肢エンハンサー配列に緑色蛍光タンパク質(GFP)を連結したものをゲノムに導入した遺伝子組換えツメガエルを作製し、四肢エンハンサーの活性化を可視化したという。