宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月14日、イプシロンSロケットBlock1で使用する第2段モーター「M-35a」の地上燃焼試験の詳細を説明した。2026年度内の初フライトをめざす同ロケットにとって、これは最後の大きな試験。イプシロンSは開発が難航し、完成が大幅に遅れていたが、この燃焼試験に成功すれば、打ち上げへと大きく前進する。
イプシロン復活への大きな山場
イプシロンSロケットは、強化型イプシロンの後継機として開発が進められてきた固体ロケット。当初、第2段モーターには、推力を強化した「E-21」を使う予定だったが、燃焼試験において2回の爆発が起きるなど、開発に難航。そこで計画を見直し、第2段を強化型に戻した形態(Block1)により、早期の打ち上げ再開をめざすことを決めた。
ただ、強化型の第2段モーター「M-35」は、推進剤とインシュレーション(断熱材)の原材料の一部に枯渇品があるため、その枯渇した原材料を代替したM-35aを開発。M-35自体は強化型での打ち上げ実績があるものの、M-35aはそれと完全に同一ではないため、今回、燃焼試験を行い、機能や性能に問題がないか確認するというわけだ。
JAXAの井元隆行プロジェクトマネージャは、この燃焼試験を「イプシロンを復活させるための非常に重要なステップ」と位置づける。イプシロンロケットは、2022年10月を最後に、打ち上げが止まっている。しかも最後は失敗で終わったため、成功となると、2021年11月以来だ。これ以上空白期間を長くしないために、今回の成功は絶対条件だ。
燃焼試験は、7月23日に種子島宇宙センターにて実施する予定。推進剤において代替した材料は、すでにH3ロケットの固体ロケットブースタ「SRB-3」で適用した実績もあり、E-21のような大きな問題が発生することは考えにくいが、今回、データの評価体制を強化し、温度や歪みの計測点を追加している。
試験のための設備も変更。種子島宇宙センターの試験場は、もともとSRB-3クラスの燃焼試験に対応できるよう設計されているため、第2段モーターだと長さが足りない。E-21のときは、長尺のアダプタを取り付けていたが、ハンドリング時にモーターへの荷重が過大になる可能性があったため、今回はそれを短小化した。
モーターとアダプタの合計の長さが短くなったため、地面に設置するための台座を新たに1つ追加。さらに、主推力アダプタ管という細長い構造も追加し、これで燃焼時の推力を受ける形とした。
試験の実施時間は、8:30〜16:30。燃焼時間は約130秒で、これはE-21での約120秒より、やや長い。燃焼時にはノズルから固形物(アルミナ粒子)なども噴出するため、それが地上側に降ってこないよう、海側への風が吹いている必要がある。実際に点火する時刻については、当日の天候状況なども判断しながら決める。
今回の燃焼試験が成功すれば、すぐにM-35aのフライト品の製造に着手。射場である内之浦宇宙空間観測所で全段を組み上げた後、点火直前までを模擬するY-0リハーサルを実施し、2026年度内に打ち上げを実施する予定だ。射場には、製造済みの第1段モーターが長らく保管されていたが、次の打ち上げには、8月に運び込む新しいものを使うそうだ。
また、フェアリングの分離試験も、追加で実施することになったという。イプシロンSでは、従来フェアリング内に格納していた第3段を大型化して外に出すため、フェアリングも新しくなるのだが、これまでは部分的な分離試験のみで、全体では行っていなかった。追加でコストは発生するものの、確実な成功のためには、これはやるべきだろう。
E-21の爆発原因調査には進展も
2026年度内に打ち上げるイプシロンS実証機(イプシロン7号機)に搭載する衛星はまだ調整中。システムが大きく変わる新型ロケットのため、実用衛星ではなく性能確認用のダミーウェイトを搭載するのがJAXAの基本方針ではあるものの、希望する衛星があれば、搭載する可能性もあるという。
ただ、Block1の大きな課題は、打ち上げ能力の低下だ。元々は太陽同期軌道(SSO)に600kgを計画していたが、Block1ではこれが「400kg以上」(井元プロマネ)となる見込み。より正確な数値については、今後、実証機の打ち上げ結果なども踏まえて検討していくことになるものの、大幅な低下となるのは避けられない状況だ。
国際競争力を確保するためには、この能力低下は大きな痛手。当面はBlock1で対応するしかないが、次のBlock2(仮称)によって、打ち上げ能力を元に戻すのは急務だ。そのためには、E-21の爆発原因をなるべく早く特定する必要がある。Block1の開発と並行し、E-21の原因究明作業も続いており、今回、その進捗についても報告があった。
E-21で実施した2回の燃焼試験では、ともに燃焼圧力が想定より高くなる現象が発生していた。ここで起きていた「何か」が爆発に繋がった可能性が高く、それを調べるため、直径44cmに小型化したモーターを6種類用意。燃焼試験を行ったところ、最後の6種類目の試験において、燃焼圧力が高くなる現象が再現されたという。
これは、欠陥を模擬するため、ブーツフラップ(推進剤側の断熱材)の中心側の一部を削除したケースだった。燃焼後の小型モーターを分析した結果、ブーツフラップの奥側に穴が空いた可能性が高いことが判明。どうやって中心側から奥側に影響が波及したのかというメカニズムはまだ不明なものの、これは大きな手がかりといえる。
E-21の燃焼異常の原因については、すでに3つの要因に絞り込んでいたが、これまでの解析から、JAXAはブーツフラップの破孔を有力視。そのメカニズムをさらに詳しく調べるため、今後、追加で小型モーターの燃焼試験を実施する予定だ。
しかし、これが原因で爆発が起きたのかどうかは、まだ分からない。もし本当の原因が別にあって、それを見逃してしまうと、3回目の燃焼試験でも爆発するという最悪の結果にもなりかねない。そこで、原因を特定するための“切り札”としてJAXAが期待しているのが、実機サイズのモーターによる再現試験である。
E-21を単に小型化しただけのモーターでは、燃焼させても異常が再現されなかった。これは、燃焼ガスの流れなどが、サイズへの依存性があるためと考えられる。一方、2回の燃焼試験では、どちらも同じように爆発しており、再現性は高い。このサイズで作れば、同じ現象が再現される可能性は高いといえる。
ただ固体ロケットは通常、液体ロケットと違って、途中で燃焼を止めることができない。爆発を避けるため、この燃焼試験では、外側に燃えないように配合を工夫した偽物の推進剤を詰めたモーターを使い、燃焼を20〜30秒程度で止める。それを分解して調べれば、モーター内部で何が起きていたのか、詳しく分かるというわけだ。
爆発すると全てが吹き飛んでしまうが、この方法であれば、問題の現象を再現しつつ、しっかりと証拠を残せるという点で、非常に画期的。「安全に実施できるかどうかが最大の懸念」とのことで、まだ実施は確定ではないものの、井元プロマネは「実施に向けて検討したい。これで真の原因が突き止められるのではないか」と期待を寄せた。











