沖縄美ら海水族館(沖縄県本部町)は、ムラサキヌタウナギの寄生虫を「サメの人工羊水」を応用して撃退する技術を確立した。飼育中のムラサキヌタウナギは体表に寄生虫が繁殖して死ぬこともあるため、これまで手間と時間をかけて寄生虫を一匹ずつピンセットで取り除いていた。今回、サメの赤ちゃん用の人工羊水を改良してムラサキヌタウナギを浸したところ、わずか5分で寄生虫を駆除できることが分かった。他の生き物にも応用できれば、水族館の飼育環境の改善に役立つという。

ムラサキヌタウナギは原始的な魚の一種で、顎がない「無顎類」の仲間だ。同水族館管理センター魚類課深海展示係の高岡博子さん(深海生物の飼育担当)によると、沖縄近海の水深600メートル以深、水温約10度のところに生息し、口にある歯のような突起でむしりとるようにしてエサを食べる。自然界では海の生き物の死骸などを食べているとされるが、生態には謎が多い。

  • alt

    水族館で展示されているムラサキヌタウナギ(国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館提供)

ムラサキヌタウナギを水槽内で飼育すると、単生類の寄生虫が付着する。この寄生虫は扁形動物の仲間で、体表の粘液をエサにして繁殖する。その結果、ムラサキヌタウナギの体表が傷つき、最悪の場合は死に至ることもある。そのため、寄生虫の定期的な駆除が欠かせない。

これまで水族館では、生き物を淡水に浸して寄生虫を駆除する「淡水浴」が一般的だった。しかし、ムラサキヌタウナギなど淡水に極めて弱い生き物には適用できず、その代わりに、ピンセットでつまみとるという最も確実な方法を採用してきた。だが、手作業なので生き物の拘束時間が長く、生き物にとっても飼育員にとっても負担が大きかった。

  • alt

    ムラサキヌタウナギにおける寄生性単生類の駆除の流れ(国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館提供)

同水族館管理センター魚類課黒潮展示係の冨田武照さん(サメの研究)は、サメの人工羊水の研究を続けてきた。水族館で長くサメを飼育していると繁殖行動が起こり、妊娠・出産に至ることがある。ヒトの場合、周産期のトラブル時は人工保育器を使うが、サメが早産した場合の対応法は確立されていなかった。冨田さんは2017年から研究を開始し、21年に人工子宮装置・人工羊水を編み出した。人工羊水は、海水に淡水や尿素を混合したもの。これにより、サメの母体の環境に近い状態を作り出すことができた。

高岡さんは手作業による寄生虫駆除の負担を軽減する方法を模索する中で「人工羊水の成分が有効ではないか」と考え、冨田さんに打診した。ムラサキヌタウナギを人工羊水に浸したところ、予想通り寄生虫を駆除できることが分かった。その後、尿素や海水の比率を変えることで、より効果的な溶液の開発に成功した。この溶液は、浸透圧や塩分が海水とは異なり、ムラサキヌタウナギには無害でありながら、寄生虫には致死的である。

高岡さんは「水族館は様々な生き物がいるため、既存の方法では対応できないことも多い。今回の手法に限らず、よりよく飼育するための手法をこれからも開発していきたい」と話した。冨田さんは「淡水浴が不可能な他の生物にも応用できないか、今後も研究を続けたい」とした。

今回の方法は5月20日に特許を取得し、成果は6月9日、沖縄美ら海水族館が発表した。論文は2025年7月17日、オランダの学術誌「メソッズエックス」に掲載された。

関連記事

脳の起源はサメより古い5億年以上前 理研と兵庫医大が解析

ネコがマタタビをなめ、かむのは、防虫効果を高めるため 岩手大など