大阪公立大学(大阪公大)は7月1日、マウスに油脂を自由に摂取させた結果、雄では、視床下部および「メラノコルチン4受容体ニューロン」が集まる「視床下部室傍核」でタンパク質「Optic atrophy 1」が増える一方、雌では変化が見られないことを明らかにしたと発表した。

さらに、OPA1を特定の神経細胞で欠損させると、食べ過ぎや油脂の強い好みが生じて肥満になりやすくなり、その影響は特に雌で強く現れること、また肥満治療薬の食欲抑制効果も雌では弱まり、神経細胞のエネルギー機能が食欲制御に重要である可能性が示されたこと、肥満の起こり方に性差があることが示されたことも併せて発表した。

  • 油脂を摂取させた雄マウスの視床下部などでOPA1が増加することが明らかに

    今回の研究では、油脂を摂取させた雄マウスの視床下部などで、OPA1が増加することが明らかにされた。(出所:大阪公大Webサイト)

同成果は、大阪公大大学院 生活科学研究科の松村成暢教授、同・藤谷美菜客員研究員(米・テキサス大学 サウスウェスタン医療センター(UTSW)研究員兼任)、同・藤川哲兵客員准教授(UTSW 准教授兼任)、大阪大学大学院 医学系研究科の佐々木勉特任教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国実験生物学会連合が刊行する、生物学と生物医学を扱う旗艦論文誌「FASEB Journal」に掲載された。

脂肪摂取時の食欲と体重を制御するタンパク質とは?

肥満は糖尿病や心血管疾患など、さまざまな生活習慣病の原因となる世界的な健康課題で、もちろん日本も例外ではない。肥満に至る理由はそれぞれだが、高カロリー食品の過剰摂取はその代表例である。特に、油脂を多く含む食品はヒトに「おいしい」と感じさせやすく、一度食べ始めると食欲のブレーキが効きにくくなることがある。その結果、健康長寿のために腹八分目の食事が望ましいことがわかっていても、満腹まで食べてしまう。摂取カロリーが消費カロリーを上回れば基本的には肥満につながるが、脳が脂質をどのように感知し、食欲や体重を調節しているのかなど、肥満に関するメカニズムの詳細はまだ解明されていない点も多い。

視床下部に存在する「メラノコルチン4受容体(MC4R)ニューロン」は、食欲を抑え、体重を維持する上で最も重要な神経細胞の1つだ。食後に活性化することで、「もう十分食べた」という満腹のシグナルを伝え、食べ過ぎを防ぐ重要な役割を担う。また、同ニューロンの機能低下は、ヒトでも重度の肥満の原因となることが知られている。

一方、神経細胞の活動には大量のエネルギーが必要であり、その供給を担うミトコンドリアの機能維持が不可欠だ。ミトコンドリア内膜の融合を担うタンパク質「Optic atrophy 1」(OPA1)は、神経細胞のエネルギー産生を支える重要な因子だが、MC4Rニューロンにおける役割や、脂質摂取との関係はこれまで解明されていなかった。そこで研究チームは今回、MC4RニューロンにおけるOPA1の働きについて調べたという。

今回の研究では、まず通常のマウスに油脂を自由に摂取させた上で、変化が調べられた。油脂はマウスにとっても非常に好物である。その結果、雄では視床下部およびMC4Rニューロンが集まる「視床下部室傍核」(PVH)において、OPA1の発現増加が確認された。PVHは、食欲やエネルギー代謝、自律神経、ストレス応答などを統合的に制御する脳の重要な中枢で、満腹シグナルを伝える中心的な役割を果たす部位だ。しかし、雌マウスでは同様の変化は観察されなかった。

次に、MC4Rニューロン中のOPA1を欠損させたマウスを作製して解析が進められた。その結果、加齢に伴う体重増加・肥満の進行、標準飼料条件下における摂食量の増加が認められたという。さらに、油脂と標準飼料を自由に選択できる条件下では、特に油脂の摂取量が増大し、それに伴う体重増加がより顕著となることが明らかにされた。これらの影響は、雌においてより強く現れることも確認された。

続いて、通常マウスとOPA1欠損マウスそれぞれに対し、肥満症治療薬として用いられているMC4R作動薬の投与が行われた。その結果、雄ではどちらのマウスも正常に食欲が抑制されたが、雌ではOPA1欠損マウスのみ食欲抑制効果が減弱した。この結果は、MC4Rニューロンのミトコンドリア機能が低下すると、食欲を抑える神経回路の働きが十分に発揮されなくなる可能性を示すものとした。

今回の研究より、脳内ミトコンドリアが食欲や油脂欲求を制御する新しい分子メカニズムが示された。これまでの肥満研究では、ホルモンや神経伝達物質に注目した研究が中心だったが、今回の成果は、「神経細胞内のエネルギー代謝」という新たな視点から肥満の発症機構を理解する手掛かりを提供するものだという。また、雌雄でOPA1の応答や肥満の起こり方が異なることから、性差を考慮した肥満治療や個別化医療の基盤となる知見としても期待されるとした。

今後は、OPA1がどのような分子機構によってMC4Rニューロンの機能を維持しているのかを詳しく解明すると同時に、食事内容によって脳のミトコンドリア機能がどのように変化するのかを解明することで、肥満や過食の予防・治療につながる新たな創薬標的や栄養学的介入法の開発につながることが期待されるとしている。