この半導体ニュースのまとめ
・Infineon Technologiesが、独ドレスデンに世界最大のパワー半導体およびアナログ/ミクスドシグナル工場を開設
・計画より数カ月前倒しでの開設を実現
・総額50億ユーロの投資でドレスデン拠点の製造能力を倍増させ、AIデータセンター電源やSDV、再生可能エネルギー向け需要に対応
2022年の計画発表から約3年半、スマートパワーファブが開設
Infineon Technologies(インフィニオン)は7月2日、独ドレスデンにおいてパワー半導体およびアナログ半導体/ミクスドシグナル半導体工場「スマートパワーファブ」の開設セレモニーを開催した。同工場は総額50億ユーロを投じたもので、インフィニオン史上最大の単独投資であるとともに、ドイツにおいても最大級の投資プロジェクトの1つとなる。
同工場の計画は2022年11月に明らかにされた。当時の発表では、独ドレスデンに300mmウェハ対応の新工場を建設し、アナログ/ミクスドシグナルおよびパワー半導体の生産に向けて2026年秋より稼働させる予定としていた。また、同社の単独投資としては過去最大規模であり、European Chips Act(欧州半導体法)を通じた資金調達への期待も示していた。
その後、2023年2月には、ドイツ連邦経済・気候行動省(BMWK)の環境審査および同社取締役会の最終承認を受け、新工場の建設開始を発表。欧州委員会による国家補助金決定やドイツの補助金手続きを待たず、自動車業界を中心とする顧客需要の高まりに対応するため、早期の起工を決めたとしていた。
2025年5月に独政府から、スマートパワーファブに対する公的資金申請に関する最終承認を取得したことが発表された。欧州委員会は同年2月に独連邦政府による公的資金提供を承認しており、欧州半導体法とIPCEI ME/CTイノベーションプログラムに基づき、同工場への資金提供額は約10億ユーロになる見込みとされていた。
今回の開設により、2022年の計画発表から、建設開始、公的資金承認を経て、当初予定されていた2026年秋の生産開始よりも前倒しで、ドレスデンの新たな製造拠点が立ち上がることになる。
50億ユーロの投資でドレスデン拠点の製造能力を拡大
新工場により、インフィニオンのドレスデン拠点における製造能力は拡大されることとなり、パワー半導体およびアナログ/ミクスドシグナル技術における世界最大級の製造拠点が誕生することになると同社では説明している。また、同工場では1000人の直接雇用が創出される予定で、地域経済やサプライヤ、周辺エコシステムにも波及効果が期待されるとしている。
インフィニオンのCEOであるヨッヘン ハネベック(Jochen Hanebeck)氏は、新工場について、AIデータセンターへの電力供給からソフトウェア定義車両(SDV)、再生可能エネルギーに至るまで、将来の中核技術に必要とされる製造能力を創出するものだと説明。世界的なAI革命の実現や重要産業におけるサプライチェーン確保に向け、同社が重要な推進力をもたらすとした。
過去の発表では、新工場がフル稼働時には年間50億ユーロ程度の売り上げを見込むことも示されている。パワー半導体およびアナログ/ミクスドシグナル製品は、電力制御、センシング、車載、産業、AIインフラなど幅広い領域で需要が拡大しており、今回の能力増強は、同社の中長期的な成長を支える製造基盤となる。
AIデータセンター電源、再生可能エネルギー、SDV向け需要に対応
スマートパワーファブで製造される半導体は、AIデータセンターの電力供給効率の向上に加え、風力・太陽光発電設備、電力グリッド、SDVなど、産業および自動車向け用途での活用が想定されている。
AIデータセンターでは、GPUやAIアクセラレータの消費電力増大に伴い、サーバやラック、データセンター全体の電源効率向上が重要な課題となっている。パワー半導体は、電力変換効率を高め、発熱や電力損失を抑えるうえで不可欠な部品であり、今後のAIインフラ拡大を支える基盤技術の1つとなる。
また、再生可能エネルギーや電力グリッドでは、電力変換、制御、監視を高効率に行うための半導体需要が拡大している。自動車分野でも、EVやSDVの普及により、車載電源、負荷制御、電流監視、センサ、制御ICなどの需要が高まっており、インフィニオンはパワー半導体とアナログ/ミクスドシグナル技術を組み合わせることで、高効率かつスマートなシステムソリューションを提供するとしている。
One Virtual Fabでフィラッハ工場と連携、立ち上げを高速化
新工場では、デジタル化を徹底的に活用することで、需要に応じて従来の最大2倍のスピードで製造能力を立ち上げられるとしている。
具体的には、建屋や装置配置をデジタルツインにより事前設計・最適化したほか、システムやプロセスの検証にはAIアルゴリズムを活用。また、オーストリア・フィラッハ工場と連携する「One Virtual Fab」により、プロセスおよび製品認定を従来より大幅に迅速化したという。
One Virtual Fab構想は、2023年の建設開始発表時点でも、フィラッハ工場とドレスデン新工場を密接に連携させ、顧客に対して迅速かつ大量にパワー半導体を供給するための仕組みとして説明されていた。今回の開設により、同構想が実際の量産立ち上げフェーズへ進むことになる。
インフィニオンは、需要動向が速く変化するAI分野などで市場機会を柔軟かつ効果的に捉えるには、単に製造能力を増やすだけでなく、立ち上げ速度や製品認定の迅速化が重要になるとみている。スマートパワーファブは、こうした市場変化に対応するため、製造拠点そのものをデジタル化した工場として位置付けられている。
欧州半導体法とIPCEIが支援、シリコン サクソニーの存在感を強化
スマートパワーファブは、欧州半導体法とIPCEI ME/CTイノベーションプログラムの双方によって支援されるプロジェクトとなる。2025年5月時点では、欧州委員会が独連邦政府による公的資金提供を承認済みで、独政府も最終承認を行っており、同工場に対する資金提供額は約10億ユーロになる見込みとされていた。
今回の拡張により、インフィニオンのドレスデン工場は、パワー半導体およびアナログ/ミクスドシグナル技術における世界的な製造拠点としての位置付けをさらに強めることになる。同時に、ドレスデン周辺の半導体クラスター「シリコン サクソニー(Silicon Saxony)」における欧州のリーダーシップ強化にもつながることも強調している。
ドイツ連邦首相のフリードリヒ メルツ(Friedrich Merz)氏は、今回の新工場について、競争力の高い最先端半導体製造がドイツで可能であることを示すものだとコメントしている。パワー半導体は、エネルギー転換、モビリティの未来、AIインフラに不可欠な基盤技術であり、ドレスデンにおける製造能力拡張は欧州の技術主権と重要サプライチェーンの強靭性を高めるものだとしている。
また、ザクセン州首相のミヒャエル クレッチマー(Michael Kretschmer)氏は、欧州最大のマイクロエレクトロニクス クラスターを有するドレスデンが選ばれたことは大きな立地優位性を示すものだと説明。新工場がドレスデンのエコシステムをさらに強化するとした。
天然ガス不使用、水使用量の約90%を再循環
スマートパワーファブは、持続可能な製造の観点でも新たな基準を打ち立てるとしている。最新の製造技術と最適化されたエネルギーおよび資源プロセスにより、エネルギー消費を抑え、環境負荷の低減が図られているとする。例えば、新しい製造システムでは天然ガスを使用せず、水処理およびクローズドループ型水循環システムにより水使用量を削減。使用水の約90%を再循環させるほか、最大45%のエネルギー回収も可能だとしている。
半導体工場は大量の電力と水を必要とするため、製造能力の拡張と環境負荷低減の両立が重要な課題となっている。インフィニオンとしては、AIや再生可能エネルギー、モビリティ向けに高効率半導体を供給するだけでなく、その製造プロセス自体でも資源効率を高めることで、脱炭素化とデジタル化の双方を支える姿勢を示した形となる。
パワー半導体の300mm化で欧州の供給能力を強化
インフィニオンは、ドレスデンに先行する形でオーストリアのフィラッハ拠点にて2021年9月より300mmウェハ工場を稼働させており、アナログ/パワー半導体の300mm化を推進してきた。今回のドレスデン新工場は、そうした300mm対応製造ネットワークの中核を担う拠点となる。
世界では、パワー半導体やアナログ半導体メーカー各社が300mmウェハ対応の投資を進めており、欧州、米国、中国などで生産能力増強が進む。8インチ対応の半導体製造装置の入手が難しくなっているという半導体業界特有の事情もあるが、単純に1ウェハあたりの半導体ダイの取れ数が増えるということは、生産能力が拡大し、それがそのまま製品競争力に直結することとなるという意味合いが大きい。
スマートパワーファブの開設は、インフィニオンにとって、ドレスデン拠点の製造能力倍増にとどまらず、欧州域内でパワー半導体およびアナログ/ミクスドシグナル製品の供給力を高めるという意味を持つ。AIインフラやエネルギー転換、次世代モビリティの拡大を背景に、パワー半導体の重要性はさらに高まる見通しであり、今回の開設は、インフィニオンのグローバルな供給体制だけでなく、欧州の半導体サプライチェーン強化という観点でも重要な節目となりそうだ。

