電気自動車(EV)の充電は30分以内で完了することが理想です。その実現には、各充電ポイントに少なくとも1MWの電力を供給できる、安全で信頼性の高いシステムが不可欠です。また、電力網自体もこの規模のEV普及を支え、効率的かつ安定的に電力を供給できる必要があります。
アメリカのオークリッジ国立研究所(ORNL)は、メガワット充電システムと呼ばれる全国規模のアーキテクチャを構想しています。2022年に初めて発表されたORNLの目標は、オンセミをはじめとする現在利用可能な技術を活用し、ほぼ使い切った状態の500kWバッテリーを搭載した電動セミトラックを30分以内に潤伝できるEV急速充電ステーションの全国ネットワークを開発・展開することです。
この構想は、世界中の電力供給のあり方に革命的な変化をもたらし、電動車による高速道路走行を、少なくともガソリン車と同等に便利で安全なものにする可能性があります。ORNLの設計を採用することで、既存の概念ではあるものの、特に北米では従来十分に活用されてこなかった電力供給の「双方向充電」が取り入れられます。これにより、本来は車両の充電を目的としたエネルギー供給システムが、電力を主系統の電力網へ逆に供給することも可能になります。
双方向システムが広く導入されれば、例えば電力供給不足や停電が発生した際、充電されたEVのバッテリーで家庭全体に電力を供給するといったことも可能になります。
こうしたシステムを実用化するには、技術的な障壁を克服する必要があり、そのためにはアーキテクチャを根本から見直すアプローチが求められます。こういった電力供給システムには、より高性能でエネルギー効率に優れ、放熱性能の高い半導体が不可欠です。
Yole Groupの創業者兼社長であるJean-Christophe Eloy氏は、最近のホワイトペーパーで次のように述べています。
「電動化、自動運転、そしてソフトウェア定義車(SDV)の進展は、車両そのものだけでなく、それを支えるバリューチェーン全体をも再形成しつつある。この変革の中心にあるのが半導体であり、激しい競争市場において、性能、イノベーション、差別化を実現する戦略的な中核要素となっている。」
双方向メガワット充電システム
太陽光発電を活用した充電システムにおいて、近年標準機能として普及しつつあるのが“双方向DC急速充電(DCFC)”です。
一方向では、停電などの際に、太陽光充電器が主電力系統で給電されているシステムへバックアップ電力を供給することを可能にし、もう一方向では、太陽光充電器や車両を介して電力を電力網へ戻すことが可能になっています。これがいわゆる“V2G(Vehicle-to-Grid)”モードです。名称からは車両が常に電源であるように見えますが、実際には、太陽光充電器から電力網へ電力を供給するのと同じ技術によって実現されています。
双方向化の最大の目的は、電力の配分と消費に柔軟性を持たせることにあります。
ORNLの充電ネットワークに組み込まれる太陽光発電(PV)システムは、需要が逼迫する高負荷時において、電力を系統へ戻すことも可能です。これにより、PVシステムは分散型エネルギーシステムの重要な構成要素となります。
完全に双方向化されたエネルギーインフラでは、車両のバッテリー自体がバックアップ電源として機能します。この電力は、家庭への電力供給(V2H:Vehicle-to-Home)に利用できるほか、DC電源機器や他のEVバッテリーへの供給(V2L:Vehicle-to-Load)にも活用できます。DCFCは、充電インフラの効率を大幅に向上させるための、以下のような需要側・供給側双方のエネルギー管理手法を実現します。
- ピークシェービング(Peak shaving):太陽光発電(PV)などの電力を活用し、系統からの電力需要を抑制
- 負荷分散(Load balancing):マルチポートから各充電ポイントへ電力を均等に分配し、過負荷を回避
- バックアップ電源(Backup power):現地の蓄電池を活用して、系統およびPVからの電力を補完
- エネルギーアービトラージ(Energy arbitrage):需要の低い時間帯に蓄電池を充電し、利用可能な電力供給を最適化
ORNLの双方向DCFCアーキテクチャの中核を担うのが、「マルチポート」と呼ばれる電力変換システムです。同研究所の構想では、このシステムは太陽光発電(PV)、EV向けの急速充電(1MW以上)、さらにオンサイトのエネルギー貯蔵システム(ESS)を統合する形で構成されます。
マルチポートが接続される充電システム全体としては、10MW~15MWの電力供給能力を持ち、各マルチポートは1MW~5MWの出力に対応します。
このアーキテクチャでは、各HD‑EV用コンバータの定格は1.2MWです。各コンバータの充電ポート構成は、1.2MWの単一ポート、または400kWポート×3の構成が採用されています。DC-DC変換部における各充電ポートのトポロジーは、デュアル・アクティブ・ブリッジ(DAB)コンバータ方式をベースとしています。これは、以下の重要な理由から、ORNLにとって極めて重要な設計選択となっています。
- 半導体の効果的活用による、高効率かつ信頼性の高い電力供給に不可欠な同期整流プロセスの大幅な簡素化
- パルス幅変調(PWM)の採用による、各DC-DCコンバータの電磁干渉(EMI)スペクトルの抑制と管理性向上
- 固定スイッチング周波数の採用による、小型EVのみを充電している低負荷時状態におけるシステム挙動への対処の容易化
- 本質的に双方向であるDABトポロジーによる、余剰電流の電力系統への回生(逆潮流)の許容
シリコンカーバイド(SiC)による双方向充電アーキテクチャの実現
ORNLの設計により、単一の系統接続ポイントから最大16MWの電力で充電システムを稼働させることが可能となり、各接続点は複数のポートに対応します。ただし、これらの充電ポイントの負荷はEVに限らず、エネルギー貯蔵システム(ESS)や太陽光発電(PV)システムも含まれます。こうした要求を同時に満たすためには、DC-DC電力変換システムの主要なスイッチング素子(パワー半導体)として、オンセミのEliteSiC M3S classに代表されるワイドバンドギャップの2kV SiC MOSFETが必要となります。
小型車両を使用する一般ユーザーに対しては、インフラ設計者やアーキテクトの間で、20~30分の待ち時間を、充電の一環として受け入れられるという考え方が示されています。一方で、電動セミトラックや電動バスなどの電動大型車両(eHDV)のドライバーには、30分の充電時間を確保することは簡単ではありません。 こうした商用輸送分野のニーズに対応するため、オンセミは100kWのDC急速充電パワーモジュールのリファレンス設計を開発しています。
この革新的な設計は、双方向の電力フローに対応し、V2Gを活用したエネルギー最適化を実現しながら、最大100kWの出力を提供します。公称入力電圧480VACに対応した本100kWモジュールは、97%以上のピーク効率を達成し、エネルギー損失の低減と運用コストの削減に貢献します。
本記事はonsemiが自社のLinkedInに投稿した記事「From Grid to Vehicle and Back: Building Smarter, Faster, More Sustainable Megawatt EV Charging」を翻訳・改編したものとなります


