
「六本木ヒルズ」での経験が原点に
「社長を引き継ぐにあたり、私が最も大事にしたいと思っていることは、『森ビルらしい都市づくりを追求し続けること』、これに尽きる」――こう話すのは、森ビル次期社長の向後康弘氏。
2026年5月20日、森ビルが社長交代を発表した。26年6月開催予定の株主総会と取締役会を経て、社長には取締役常務執行役員の向後氏、社長の辻慎吾氏は代表権のない会長に就く。
向後氏は1968年4月東京都生まれ。91年慶應義塾大学経済学部卒業後、森ビル入社。配属されたのが「六本木ヒルズ」の再開発の現場だった。当時の上司が辻氏。
この時、400人という権利者から再開発組合設立の同意書を集めるという仕事に携わり、数年がかりで同意書をもらうなど苦労をしながら合意を形成するという経験を積んだ。「原点であり根幹になっている」(向後氏)
03年の開業後は、辻氏が新たに立ち上げた「タウンマネジメント」のチームに加入。当時は日本でタウンマネジメントという概念がなく、「どこにも前例のない挑戦に加われたことは私の大きな財産になった」と向後氏。
辻氏は11年6月に社長就任。リーマンショック、東日本大震災後の厳しい経済環境の中での就任だったことに加え、就任から間もなくの12年3月に会長で森ビルを牽引してきた森稔氏が逝去。辻氏は「『森ビルはどうなるんだ』と社内外から心配された時期」と、社長として、この時期が最も厳しかったと振り返る。
その後は長期の街づくりと財務体質の強化の両立を進め、「虎ノ門ヒルズ」プロジェクトや「麻布台ヒルズ」という巨大プロジェクトを完成させた。
辻氏は向後氏のことを「森ビルの根っこの哲学を最も理解している」と評する。向後氏は森稔氏、辻氏から真摯に物事を追求し続ける「べき論」を引き継ぎたいと話す。
今後も「六本木5丁目プロジェクト」、「虎ノ門3丁目プロジェクト」など大型プロジェクトが控える。建築コストや金利が上昇、そこにイラン問題が拍車をかける中、いかに「森ビルらしい」プロジェクトをやり遂げられるか、向後氏にかかる責任は重い。