筑波大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の3者は4月20日、これまで高温環境下では直鎖型ゲノムを持つRNAウイルスのみが発見されていたのに対し、70~80℃の高温温泉環境の微生物群集から自己複製能力を持つ未知の環状RNAを発見し、同RNAは既知の環状RNAとは塩基配列が大きく異なる一方で、高次構造的に共通した特徴を持つ新たな系統に属することを明らかにしたと共同で発表した。

  • 今回の研究の概念図

    今回の研究の概念図。これまで自己複製するRNA因子のうち、高温極限環境では直鎖型RNAウイルスのみが確認されていた。今回の研究では、70~80℃の高温酸性温泉環境から環状RNAレプリコンが発見され、自己複製RNA因子の生息域が極限環境にまで拡張されていることが示された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)

同成果は、筑波大生命環境系の浦山俊一助教、JAMSTEC 生命地球科学研究部門の布浦拓郎上席研究員、農研機構 植物防疫研究部門の松下陽介上級研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

新たな分子システム設計への応用にも期待

ヒトを含めた現在の地球生物の多くはDNAを遺伝情報として利用しているが、その一方でウイルスや「ウイロイド」(ウイルスよりも小さい感染性RNA分子)のように、RNAのみを遺伝情報として自己複製を行う「RNAレプリコン」と呼ばれる分子も存在する。

DNAが複雑な構造を持つことから、地球最初期の生命はより単純なRNAを遺伝物質として利用していたとする「RNAワールド仮説」が提唱されており、この観点からもRNAレプリコンは生命の起源や進化を紐解く上で重要な存在として注目を集めている。

しかしながら、どのような環境にどのような種類のRNAレプリコンが存在しているのか、その全体像は未解明な部分が多い。そこで研究チームは今回、以前の調査で70~80℃の高温酸性温泉から未知の直鎖型RNAウイルスを発見した知見を活かし、同等の極限環境において新たなRNAレプリコンの探索を試みたという。

具体的には、高温温泉環境の微生物群集から、未知のRNAレプリコンが網羅的に探索された。解析にあたっては、RNAが自己複製する際や高次構造を形成する際に生じる「2本鎖RNA」を選択的に回収して検出する独自手法が用いられた。この手法は、既知の因子と配列が似たものしか検出できない従来手法の限界を打破し、これまで見落とされてきた新規性の高い因子を識別できる点が大きな特徴である。

探索の結果、環状構造を有する新タイプのRNAレプリコンが発見された。これにより、高温極限環境には既知の直鎖型RNAウイルスだけでなく、これまでは存在が想定されていなかった特殊な環状RNAレプリコンも存在することが明らかにされた。

一般的にRNAは直鎖構造を持つが、環状RNAは文字通り両端が結合した環状構造を取り、末端をもたないために分解への耐性が高い。しかし、そのことは複製もしづらいということであり、そのため既知の環状RNAレプリコンは、「ローリングサークル」と呼ばれる独自の複製機構を備えている。

今回発見された環状RNAは、既知のRNAとは遺伝子配列が大きく異なる一方で、立体構造や機能的な特徴には、近年報告された「オベリスク」と呼ばれる環状RNAレプリコンのグループとの共通性が認められた。ウイロイドなどの既知の環状RNAレプリコンはタンパク質をコードしないが、これに対してオベリスク群は、共通して1つの機能未知タンパク質をコードする遺伝子を持つと考えられている。

さらに、今回特定された配列を手がかりとして、多様な環境から得られた公開データベース内のRNA配列が網羅的に解析された。その結果、同様のRNA群の多様性が従来の想定を遥かに上回る規模で広がっていることが浮き彫りになったという。

研究チームは今後、これらRNAの宿主生物の特定や複製・伝播の仕組みといった生態・機能の解明に注力する構えだ。RNAを基盤とする多様な複製システムの理解が進むことで、バイオテクノロジーや新たな分子システムの設計への応用も期待されるとしている。