宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」1号機が、国際宇宙ステーション(ISS)に到着。油井亀美也宇宙飛行士が操作するロボットアームで把持され、ISSへのドッキングも完了した。JAXAでは、H3ロケット7号機による打ち上げからISS到着までをまとめたダイジェスト動画を公開している。

  • 次世代ハイビジョンカメラ(HDTV-EF2)で撮影された、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機の姿。国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアーム(SSRMS)で把持した様子が映っている <br />(C)JAXA

    次世代ハイビジョンカメラ(HDTV-EF2)で撮影された、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機の姿。国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアーム(SSRMS)で把持した様子が映っている
    (C)JAXA

今回が初飛行となるHTV-Xは、2020年に運用終了した「HTV」(愛称:こうのとり)の後継機にあたる日本の宇宙機で、側面に翼のように大きく展開する太陽電池パドルを備えている点が、パッと見てすぐ分かる「こうのとり」との大きな違いだ。

  • 1/35スケールのHTV-Xの模型。編集部にて2024年撮影

    1/35スケールのHTV-Xの模型。編集部にて2024年撮影

HTV-Xを構成するサービスモジュールには、単独で飛べる拡張性を考慮した設計を採用したほか、電力系や推進系なども大きく進化。細かいところでは、こうのとり中央部の「非与圧部」がHTV-Xでは機体端の「曝露カーゴ搭載部」に置き換わり、船外実験装置を載せられるようになるなど、こうのとりの後継機でありながら見た目も中身もほぼ別物の宇宙機に仕上がっている。

  • HTV-Xの概要。編集部にて2024年撮影

    HTV-Xの概要。編集部にて2024年撮影

ISSへの物資輸送の効率を強化しているのも注目ポイント。長期保存できない生鮮品などを打上げ前に射場で積み込めるように“レイトアクセス能力”を高め、打上げ24時間前まで短縮している(こうのとりは80時間前まで)。ISSには最長6カ月間係留され、荷下ろしと廃棄物の積み込みなどを行う。

  • H3ロケット7号機で初めて採用されたW型フェアリング(右)は、HTV-X与圧部への「レイトアクセス」に対応するため、縦1.6m×横1.5mの出入り口を設けている。左はHTV-Xとの比較として、こうのとり与圧部へ荷物を積み込むイメージ <br />(C)JAXA

    H3ロケット7号機で初めて採用されたW型フェアリング(右)は、HTV-X与圧部への「レイトアクセス」に対応するため、縦1.6m×横1.5mの出入り口を設けている。左はHTV-Xとの比較として、こうのとり与圧部へ荷物を積み込むイメージ
    (C)JAXA

HTV-Xは軌道上技術実証プラットフォームとして活用するといった新たな役割を担う点も、こうのとりとは大きく異なる。今回のミッションでは、約3カ月にわたり3つの実験を実施する予定だ。詳細は鳥嶋真也氏によるレポート記事を参照してほしい。

  • 三菱電機 鎌倉製作所で2024年に公開された、HTV-X 1号機のサービスモジュール本体。編集部にて撮影

    三菱電機 鎌倉製作所で2024年に公開された、HTV-X 1号機のサービスモジュール本体。編集部にて撮影

JAXAによれば、HTV-Xは10月26日の打ち上げ後、計画通りに飛行を継続。運用状況は以下の通り(時刻はすべて日本時間)。ISSへのISSドッキング完了後、JAXAはH3ロケット7号機によるHTV-Xの打ち上げからISS到着までをまとめたダイジェスト動画をYouTubeで公開した。

  • 10月26日15時12分頃:初期高度調整軌道制御(マヌーバ)完了を確認
  • 10月27日13時03分頃:第1回高度調整マヌーバ完了を確認
  • 10月29日21時28分頃:第2回高度調整マヌーバ完了を確認
  • 10月30日0時58分頃:ISSロボットアームによる把持
  • 10月30日4時43分頃:ISSとの固定金具の締結、ISSへの取り付け完了
    このあと、HTV-X1とISS間の電力・通信ラインの起動をもって結合完了
  • HTV-XがISSへ接近する様子が映っている <br />(C)JAXA

    HTV-XがISSへ接近する様子が映っている
    (C)JAXA

  • 把持時のHTV-X運用管制室の様子 <br />(C)JAXA

    把持時のHTV-X運用管制室の様子
    (C)JAXA

  • HTV-Xの把持成功を喜ぶ運用管制室の様子 <br />(C)JAXA

    HTV-Xの把持成功を喜ぶ運用管制室の様子
    (C)JAXA

HTV-Xの到着後、油井飛行士は自身のX(旧Twitter)アカウントに「金色に輝く美しい補給船がISSへ到着しました! HTV-X君です(カッコいい)! 最高の技術力が要求される宇宙開発ですが、日本が素晴らしい技術力、チームワーク、忍耐強さで国際社会に貢献している事を多くの方に知って頂けたら、そして誇りに思って頂けたら嬉しいです!」と投稿している。

なお、H3ロケット7号機打ち上げ後に開催された記者会見の質疑応答の中で、「HTV-Xに愛称はつけないのか?」と報道陣に問われたのに対し、JAXA側からは「HTV-Xは2号機、3号機と続く。皆様に愛されるような、愛称をつけてもらう雰囲気が盛り上がればつけてもらいたい」という回答があった。ISSでHTV-Xの把持を担当した油井飛行士は「HTV-X君」と呼んでいる模様だが、Xでは既にHTV-Xの愛称を募集する動きも出始めている。

新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)/H3ロケット7号機 打上げ経過記者会見 ※当該の質疑は1時間12分30秒頃から、ネコビデオ ビジュアル ソリューションズ(NVS)金子氏によるもの

ちなみに、前身にあたるHTVの最初のミッション(2009年)は“技術実証機”としての位置づけで、こちらも愛称はついてなかった。その後、JAXAは2010年8月から約1カ月間にわたり、HTVの愛称を募集。結果として1.8万件近い応募があり、「大切なもの(赤ん坊、幸せ)を運ぶ鳥としてのイメージが、国際宇宙ステーション(ISS)に重要な物資を運ぶHTVのミッション内容を的確に表している」として「こうのとり」が選ばれ、2号機以降から付けられたという経緯がある。

こうのとりの詳細については、前出の鳥嶋真也氏による弊誌連載「日本の宇宙ステーション補給機『こうのとり』が運用終了 - その軌跡と未来」もあわせて一読いただきたい。