ヤマハ発動機は10月7日、沖縄県石垣市および八重山森林組合の2者との間で、西表石垣国立公園および周辺地域の森林保全・カーボンニュートラルに向けた連携協定を締結したことを発表した。
発表に際し同社は、メディア向けにオンライン説明会を開催。森林計測技術を活用したカーボンクレジット創出における取り組みとして、今般の石垣市での事例に加え、9月に発表された徳島県三好市での取り組みなど、自治体および研究機関との連携による“持続可能な森林経営”を見据えた施策について説明した。
企業経営で不可欠となった「カーボンクレジット」
カーボンニュートラルへの貢献が地球規模で求められる昨今では、企業を評価する指標として企業活動における環境貢献度が重視されており、投資家などの判断材料のひとつとして“CO2などの温室効果ガス(GHG)排出量”などのデータが大きく影響を与えている。
そんな中、経営判断としての環境貢献度の向上策として注目を集めているのが、「カーボンクレジット」。GHG排出削減量や吸収量などをクレジット化して企業などが売買できる形にしたもので、企業がクレジットを購入した場合には、企業活動で排出されたGHGを“オフセット”し、実質的なカーボンニュートラルを実現することもできる。
森林由来のカーボンクレジットとしては主に、日本政府が認証を行う「J-クレジット」と、民間で独自に認証機関を持つ“ボランタリークレジット”が存在する。前者は国が定めた3つの方法論(森林経営活動・植林活動・再造林活動)に基づき、林業で主に用いられる針葉樹の人工林を対象とするものであるのに対し、ボランタリークレジットでは森林経営や保全などさまざまな方法論でのCO2吸収量を対象としている。そのため人工林に限らず、林業経営には向かない広葉樹林や二次林も対象にしやすいという。
無人ヘリを活用したクレジット創出を目指すヤマハ発動機
サステナビリティ経営方針の一部として「地球との共生」を掲げるヤマハ発動機は、「ヤマハ発動機グループ環境計画 2050」の中で、重点取り組み分野のひとつに“生物多様性保全”を挙げる。そんな同社は、豊富な知見を有する産業用無人ヘリコプターを活用し、森林デジタル化サービス「RINTO」を提供。LiDARによる森林計測や立木1本ごとの解析、さらには森林情報のクラウド管理サービスなど、持続可能な森林保全に向けた包括的なサービスを展開している。
同サービスは、LiDARを搭載した産業用無人ヘリコプターを活用した森林の詳細な解析によって、その全体を3Dデジタルデータ化し状況を定量化するもの。これにより、人力での計測には膨大な時間が必要とされていた森林の計測を短時間かつ無人で行え、CO2吸収量などのカーボンクレジットに関連したデータを取得可能にするという。なおヤマハ発動機は無人ヘリに関する知見も有しており、約100分の最大飛行時間や約90kmの航続距離という特徴を活かし、1日あたり約100haの計測が可能だとする。
そして近年同社は、地方自治体との共同での取り組みに注力しているとのこと。2024年にはアイフォレストなどの企業・研究機関5者と共同で、東京都檜原村をはじめとする多摩地域の森林を対象に、日本版のボランタリークレジット創出に向けた方法論の探索や、生物多様性における定量的価値の算定方法開発など、さまざまなな取り組みを開始することを明らかにしていた。
さらに2025年9月には、ヤマハ発動機と徳島県三好市に九州大学を加えた3社間で、脱炭素で持続可能な地域づくりに関する包括連携協定「森を繋ぐ協定」を締結。日本版ボランタリークレジットに加えJ-クレジットの枠組みも活用し、森林経営の健全化や地域の活性化に繋げる取り組みを開始。そして今般には、沖縄県石垣市と八重山森林組合との間で、西表石垣国立公園および周辺地域の森林保全、カーボンニュートラルに向けた連携協定を締結し、J-クレジットによるカーボンクレジット創出に向けた動きを本格化した。
林業には不向きな森林に新たな価値を与える三好市の取り組み
2025年に発表された取り組みの舞台のうち、徳島県三好市では、面積の90%を森林が占めるものの、それ自体の経済的価値低下や管理の担い手不足により未整備森林が増加していたとのこと。また搬出間伐の施業に適した針葉樹中心の未整備森林が約100ha存在していたのに加え、広葉樹の天然林など林業には向かないものの、生物多様性の評価が期待される森林も約100ha存在していたといい、それらの価値を引き出すことで“ゼロカーボンシティ”の取り組みを推進するため、J-クレジットとボランタリークレジットの両輪でのパイロットプロジェクトが起草された。
同プロジェクトでは、三好市が提供する市有林を対象に、九州大学が人工衛星や無人ヘリレーザー計測のデータを利用してCO2吸収量のポテンシャルを調査。またボランタリークレジットについては、そのクレジット創出計画の立案や実行、あるいは自然資本の経済的価値の測定・評価を行う。そしてヤマハ発動機は、J-クレジットの創出計画立案・実行に加え、森林データの計測や森林の活用支援を担当。2025年内に無人ヘリによるレーザー計測を実施し、2027年にはボランタリークレジット、翌2028年にはJ-クレジットの発行を目指すとしている。
原生林の生物多様性を守りつつ収益に繋げるクレジット創出
また沖縄県石垣市で行われる取り組みでは、固有種や国の天然記念物指定の動植物などが生息し、希少性や生物多様性の維持を目的とした保全・保続が重要視される一方で、単相林のような森林施業による収益化が難しいとされる、原生状態に近い亜熱帯性常緑広葉樹林が広がる同地域の課題解決が目指される。西表石垣国立公園や周辺地域の天然生林約990haがクレジット創出対象とされ、適切な森林管理の実施によってカーボンクレジットを創出することで、森林管理資金の確保に繋げるとする。
この取り組みでは、森林整備の基本方針確立や林業従事者への対応を担う石垣市を筆頭に、私有林の施業や巡視活動、カーボンクレジットによる地域の林業推進などを八重山森林組合が、そして産業用無人ヘリを活用したデータ取得やクレジット購入による地域への資金循環・林業支援などをヤマハ発動機が担当し、持続可能な森林管理体制の構築を目指す。
なおこの取り組みでは、ヤマハ発動機が参画したプロジェクトとしては初めて、J-クレジットとしての認証を実施。すでにCO2吸収量のモニタリングやクレジットとしての認証・発行は完了しているといい、今後はその活用・売却・購入などを通じて取り組みを本格化させていくとした。
またヤマハ発動機の担当者によれば、今回の石垣市・八重山森林組合との協定締結に伴って、カーボンクレジットに関する取り組みに加え、森林活用の方策として国立公園内での“脱炭素型アドベンチャートラベル”創出などのへの協力も行うとのこと。その際にはモビリティに関する知見を有する同社として、電動アシストマウンテンバイクなどの活用も視野に入れているといい、さらなるカーボンニュートラルな森林活用に向けて幅広く取り組みを進めていくとしている。







