新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は1月17日、国内外で活発な動きを見せる宇宙産業について、その分析や同機構としての取り組みを解説する記者説明会を実施。その中で、1月23日に最終選考会を予定する「NEDO 懸賞金活用型プログラム(NEDO Challenge)」の狙いや将来の見通しについて語られた。
民間の人工衛星開発がけん引する世界の宇宙市場
かつての宇宙産業は、世界各国の政府がプレイヤーとなって技術開発を進め、時には協力し、時には競争しながら、その発展に貢献してきた。しかし現在では、宇宙開発の主役が“官から民へ”と変化し、SpaceXに代表される宇宙企業が開発を加速。急速に民間市場が構築され、政府は企業からサービスを調達する形で宇宙産業の発展を支援する形が取られるようになった。こうした背景に後押しされてか、宇宙産業の市場規模は世界的に拡大し、2024年には世界で約140兆円に上るとの推測もある。またその成長は留まる兆しはなく、今後も宇宙ビジネスへの関心は高まるとみられる。
そんな宇宙産業の発展を牽引するキーファクタが、人工衛星だ。NEDO 航空・宇宙部 宇宙産業チームの鈴内克律チーム長によると、宇宙技術戦略は大きく3つの分野に大別できるとのこと。人工衛星関連と並び、ロケットなどの宇宙への“輸送”領域と、主に政府予算で行われる“宇宙科学・探査”分野に分類される中、世界の宇宙市場において人工衛星関連分野が有する市場規模は4分の3に迫るほど大きいとする。
そしてNEDOは現在、宇宙産業の一大トレンドである人工衛星の中でも、低軌道衛星間や衛星と地上間の高速データ伝送を可能にする通信衛星技術と、さまざまな付加価値サービスが登場している観測データを取得するための地球観測衛星に着目。また複数の衛星を連動させて運用する衛星コンステレーションの普及を見据え、現在市場でも打ち上げの主流となっている小型衛星の開発支援を進めている。
NEDOも衛星開発プログラムを立ち上げ支援を実施
NEDO 航空・宇宙部が現在行っている宇宙事業は、すでに3つの研究開発テーマが採択された「経済安全保障重要技術育成プログラム」、超小型衛星の製造期間短縮に貢献する汎用バスの開発・実証支援を行う「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業」、そして衛星データを活用したソリューションを一般公募により開発するNEDO 懸賞金活用型プログラムの3つだという。
“経プロ”とも呼称される1つ目のプログラムでは、海洋DXや海洋状況の把握に貢献する衛星コンステレーション技術、衛星間および衛星・地上間の光通信を実現するための衛星コンステレーション技術、そして小型衛星のセンシング能力を高めるための他波長赤外線センサをそれぞれ開発しているとのこと。また超小型衛星汎用バスの開発では、100kg級衛星および6Uキューブサットを対象に、受注から運用までの迅速化・高効率化につながる技術の実現が目指され、軌道上実証なども行われる。
説明会に登壇したNEDO 航空・宇宙部 宇宙産業チームの酒井謙二専門調査員は、これら2つのプログラムについて「宇宙産業に携わる既存のプレイヤーたちを対象とした事業」とし、「いわば“一本釣り漁”のようなもの」と表現した。それに対し、残る懸賞金活用型プログラムについては、「新たなプレイヤーを巻き込むため、すそ野を大きく広げた取り組み」だと話す。
誰でも挑めるNEDO Challenge - 今回は1月23日に1位が決定
NEDO 懸賞金活用型プログラム、通称“NEDO Challenge”は、人工衛星データを活用した革新的・独創的なソリューションを広く一般から募集する懸賞金型コンテストで、宇宙事業者はもちろん、非宇宙事業者をはじめ個人でも応募可能となっている。2022年には同コンテストの前身といえる「NEDO Supply Chain Data Challenge」が開催されており、酒井氏によると、このコンテストがNEDOが宇宙をテーマに行う初の懸賞金型研究開発プログラムだったという。
同機構の狙いは、予測不能なアイデアを広く集め、革新的かつ将来的に必要となる技術を発掘すること。また実現性のリスクにより応募者自身では着手できないものについて、有識者とも連携しながら研究開発を後押しすることで、新たなソリューションへの挑戦を創出したいとする。
そんな今回のNEDO Challengeは、2024年3月18日に一般公募を開始した。課題解決の対象として設定されたのは“グリーン分野”で、中でも市場性などを鑑み、「カーボンクレジット」「エネルギーマネジメント」「気候変動・環境レジリエンス」の3領域における基盤構築をテーマにアイデアを募集。3テーマ合計67の応募から、書面での1次審査を18もの応募が通過し、メンタリングを行いながらシステム開発を進めた17の案が最終選考会へと進んだ。なおシステム開発の中で計画を断念した候補者もおり、酒井氏はこのあたりにもソリューションとしての実現性を重視するNEDO Challengeの特色があるとした。
そして各候補者がプレゼンテーションを行う最終選考会は、1月23日に行われる。受賞者およびスポンサー賞も当日17時からの授賞式で発表される予定で、各テーマの3位には200万円、2位には400万円、そして各テーマ1位には賞金1000万円が贈られる。またスポンサー賞では、NEDO Challengeに協賛するNTTコミュニケーションズによる審査が行われ、最優秀賞には300万円が授与されるという。多岐にわたる宇宙開発アイデアの中から、どんな案が実現への1歩目を踏み出すのか。人工衛星を介した社会革新が始まる瞬間となるかもしれない。
なお酒井氏によると、次回のNEDO Challenge開催も予定されているとしており、農林水産分野での課題解決をテーマに据えるとのこと。2025年5月に公募を開始し、最終選考会は2026年7月に行われる予定だとした。
酒井氏は、「すでにさまざまな人が悩まされ、その解決に取り組んでいるものの、それを解決するためのスタンダードのような革新技術が生まれていない領域」をテーマにするとしており、非宇宙事業者でも垣根なく挑戦できる機会を作ることで、日本の宇宙産業を支援していきたいとしている。