花王と理化学研究所(理研)は8月20日、蚊に最適化した“仮想空間装置”を用いた実験により、二酸化炭素(CO2)の存在が蚊の行動に影響を与え、さまざまな視覚情報やにおいに対する反応を強める可能性を明らかにしたと共同で発表した。

今回の研究は、花王 ヒューマンヘルスケア研究所の難波綾研究員、理研 脳神経科学研究センター 知覚神経回路機構研究チームの風間北斗チームディレクターらの共同研究チームによるもの。成果の詳細は、Nature Researchによる電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

夏場の悩み「蚊」 その感覚をCO2が強化していた?

夏に数多く現れる蚊は、感覚刺激を正確に受け取るシステムを備えており、ヒトの呼気中のCO2を感知して飛行活動を活性化し、視覚と嗅覚を頼りに近づいた後、熱と水分を検知して肌に降り立つ、といった順序で、複数の感覚を順番に使って遠くのヒトにたどり着くという。

花王と理研の共同研究チームは今回、蚊が最初にヒトを感知するきっかけとなる感覚刺激であるCO2が、蚊の視覚や嗅覚にどのような影響を及ぼしているのかを調査するため、実験を行ったとのこと。なお実験では、両者が共同開発し2024年6月に発表された、蚊の行動を詳細に観察できる専用の仮想空間が用いられた。そして実験の結果、以下の3項目が確認されたとする。

蚊の観察実験により判明した項目

  1. CO2があると、動くものを追いかけるモチベーションが上がる
  2. CO2があると、速く動くもの・見えにくいものも追いかけられる
  3. CO2があると、好きなにおいにはまっしぐら、嫌いなにおいはより避ける
  • 今回判明した性質の概要

    今回の研究で判明した性質の概要(出所:花王)

動くものを追いかけるモチベーションが上がる

蚊を仮想空間装置に入れ、ヒトに見立てた黒い1本の線を見せた後、蚊の動きに合わせて線を動かす実験を行ったところ、黒色に反応する蚊は線が動くと追いかける性質を持つ中、CO2を嗅がせるとその追跡行動がより正確になったという。

これまでの研究では、CO2は蚊が遠く離れたヒトを感知するきっかけとして作用し、その後は視覚情報を頼りにヒトに近づくと考えられてきたとのこと。しかし実際の環境では、蚊はヒトを目視で捉えた後もCO2を感知し続け、CO2によってモチベーションを高く保ちながらヒトを追いかけていると考えられるとした。

速く動くもの・見えにくいものも追いかけられる

次に仮想空間装置の中で、動く縞模様を蚊に見せた研究チーム。通常では模様の動きを早くしても、蚊は一定の速度で追いかけるが、今回の研究でCO2を嗅がせたところ、速く動く縞模様でも追跡行動をとるようになったという。さらに、本来は蚊にとって見えづらくあまり追いかけることが無い、低いコントラスト(明度)の縞模様であっても、CO2を嗅ぐことで追跡できることが確認された。

このことから研究チームは、CO2が存在することで、蚊は視覚刺激に対してより高感度で反応できるようになると考えられるとしている。

好きなにおいにはまっしぐら、嫌いなにおいはより避ける

蚊は仮想空間装置内において、蚊が好むヒトの靴下のにおいを嗅がせると、においのある方向に向かって飛ぶ性質があるという。また一方で、ハーブなどに含まれる香り成分であるリナロールに対しては、蚊は忌避する行動をとる。

そして今回の実験では、CO2を蚊に与えることで、ヒトの靴下のにおいに対してはより強く向かって飛んでいく性質が見られたのに対し、リナロールに対してはより強い回避行動が確認されたとのこと。この結果から、CO2は蚊のにおい刺激に対する“好き嫌い”も増強させる可能性があるとした。

これらの研究結果から、CO2の存在が蚊の行動に重要な影響を与え、さまざまな視覚情報やにおいに対する反応を強めることが判明した。CO2は蚊がヒトを追いかける行動を強化する一方で、蚊が嫌な状況を避ける行動も強化する可能性が示されたことから、研究チームは、今回の成果が蚊に刺されやすい状況を理解する手助けとなり、効果的な対策を考えるための重要な情報になることが期待されるとしている。