AWSは4月20日、小売業のDXやAI活用の事例を紹介するイベント「AWS Retail & CPG Expo 2026 Build the future with AI」を開催した。

本稿では、同イベントよりホームセンター大手のカインズとアジアクエストが開発した「インテリアの試着体験」を取り上げる。カインズでは、家具やカーテンなどのインテリアは、購入前に自宅での見え方を確認できないことが大きな課題だった。

同社はこの課題に対し、AWSの画像生成AIを活用することで「購入前に試す」疑似体験を実現した。これは単なる店舗演出ではなく、消費者の意思決定そのものを変える可能性がある取り組みだ。

なぜカインズは「インテリアの試着」を必要としたのか?

カインズでは、品揃えの多さが「選びづらさ」と「購入前の不安」を生んでいた。

従来は車で来店しやすいロードサイドに大型店舗を展開してきたカインズ。しかし第3創業期を迎え、新たな施策の一つとして、吉川美南駅(JR武蔵野線)東口からすぐの場所に、テクノロジーを多用した次世代店舗「カインズ 吉川美南店」を2025年12月にグランドオープンした。

同店舗では「くらしを豊かにする多様な商品を、手に取りやすい価格で提供する」というコンセプトはそのままに、カフェやDIY工房、ドッグラン、24時間営業のレジレス無人店舗などを併設する。

  • カインズ 吉川美南店

    カインズ 吉川美南店

最新のテクノロジーも多数導入し、売場案内ロボットやAIアシスタント、アプリだけで買い物が完結するサービスなどを展開。

1万2300平方メートルという広大な店舗に多種多様な商品を配置する同店では、買い回りの楽しさがある反面、目的の商品の売り場が見つけづらい課題があった。

そこで同社は、商品を検索できる電子カタログを店内に設置したほか、スマートフォンのアプリからも目的の売り場をマップで確認できる機能を開発した。

  • 購入前に試したいという要望があったという

    購入前に試したいという要望があったという

また、品ぞろえが豊富な一方で、ラグやカーテンが自分の部屋に合うのかわからない、買う前にコーディネートのイメージを確認したいという要望も多かったという。そこで同社が着目したのが、生成AIで服の試着を可能とする「AWS Virtual Try On」だ。

  • AWS Virtual Try Onの利用例

    AWS Virtual Try Onの利用例

家具も“試着”できる?AWSの生成AIで何が変わるのか

カインズでデジタルプロダクトの企画やデザインを主幹する菅武彦氏は「画像生成AIの技術で服の着せ替えができるAWS Virtual Try Onを知り、これはインテリアの試着にも応用できると考え、検討を開始した」と振り返った。

  • カインズ 情報システム事業部 CX統括部 統括部長 菅武彦氏

    カインズ 情報システム事業部 CX統括部 統括部長 菅武彦氏

実際にAWS Virtual Try Onを活用してインテリアの試着に挑戦したところ、部屋の画像と商品画像を使ってAIが画像生成に成功。インテリアの質感や影の映り込みなどもAIが表現できることを確認できた。

  • インテリアの試着のイメージ

    インテリアの試着のイメージ

発表時点では店舗タッチパネルでAI機能を提供しており、実際のユーザーの部屋にインテリアを試着する機能はなく、事前にカインズが用意した部屋のイメージ画像を用いて試着するだけだ。しかし将来的には、実際のユーザーの部屋の画像を用いて画像を生成する機能なども開発予定だという。

サーバレス構成で何を実現したのか?

サービスの裏側では、部屋と商品の画像をそれぞれ管理画面に登録している。元画像と生成画像をアップロードしておき、ユーザーの手元では事前に生成された画像が表示される仕組みだ。これにより画像のズレやハルシネーションを防ぎ、画像の精度を担保している。

  • システム構成図

    システム構成図

アーキテクチャはAWS Virtual Try Onをベースに、サーバレスを実現した。フロントエンドはCloudFrontとS3を組み合わせてReact SPA(Single Page Application)を配信。バックエンドもAPI GatewayとLambdaによりサーバレスな構成としている。

  • アーキテクチャ図

    アーキテクチャ図

開発を手掛けたアジアクエストの向井剛志氏は「サーバレスなアーキテクチャとしたことで、サーバ費用を抑えた構成を実現できた」とコメントしていた。

  • アジアクエスト デジタルトランスフォーメーション事業部 デジタルエンジニアリング部 Eビジネスエンジニアリング課 マネージャー 向井剛志氏

    アジアクエスト デジタルトランスフォーメーション事業部 デジタルエンジニアリング部 Eビジネスエンジニアリング課 マネージャー 向井剛志氏

今回の取り組みは、店舗体験の高度化にとどまらず、消費者が「買うかどうか」を判断するプロセスそのものに踏み込むものだ。

これまでインテリアは「買ってみないとわからない」領域だったが、生成AIによりその不確実性を事前に解消できる可能性が出てきた。小売業におけるAI活用は、売場の効率化から、意思決定支援へと進みつつある。