東京大学(東大)と量子科学技術研究開発機構(QST)の両者は1月25日、太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星が「重力崩壊型超新星爆発」を起こした傍らで、太陽系が誕生したことを明らかにしたと共同で発表した。

  • 太陽系形成と進化の模式図

    太陽系形成と進化の模式図。太陽系は分子雲の重力収縮により形成された。この母分子雲には、近傍の大質量星の重力崩壊型超新星爆発で放出された26Alおよび46Tiと50Tiが混入した。原始太陽の周りに形成された円盤内の外側領域には、超新星爆発による放出物がより多く含まれていたことが、隕石の分析から明らかにされている。やがて、円盤の内側領域では地球型惑星が、外側領域では木星型惑星が形成された(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の飯塚毅准教授、同・吉原慧大学院生、東大 先端科学技術研究センターの日比谷由紀准教授、QST 関西光量子科学研究所の早川岳人上席研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

アルミニウム(安定同位体は27Al)の中性子が1つ少ない放射性同位体である26Alは、約71万年でベータ崩壊してマグネシウムの安定同位体26Mgとなるため、約46億年前の太陽系形成時からのものはすでに存在していない。しかし、太陽系最初期に形成された隕石には、地球岩石などの若い試料に比べて26Mgが過剰に存在することから、隕石形成時に26Alが存在していたことが明らかにされている。

この26Alは、太陽系の誕生前後に存在した天体で核合成され、恒星風や超新星爆発により原始太陽系にもたらされたと考えられている。その天体および天文現象候補としては、主に以下の4つが提案されていたが決着していない。

  1. 赤色巨星の一種である漸近巨星分枝星
  2. 太陽の40倍以上の質量を持つウォルフ・ライエ星
  3. 伴星を持つ白色矮星が起こす熱核反応型の超新星爆発
  4. 太陽の8倍以上の質量を持つ星が起こす重力崩壊型の超新星爆発

これらの起源を解明できれば、誕生前後の太陽系近傍に存在した天体を突き止めることが可能だ。さらに、26Alを「宇宙核時計」として用いることで、天体における核合成から太陽系誕生までの時間を計測することもできるという。そこで研究チームは今回、初期太陽系において一部の同位体が不均質に分布していた点に着目し、26Alの起源天体に迫ったとする。

  • アルミニウム-チタン宇宙核時計の模式図

    アルミニウム-チタン宇宙核時計の模式図。超新星爆発で合成された26Alはベータ崩壊によって減少し、その一部は太陽系に取り込まれた。合成された26Al量は理論計算で求めることができ、太陽系最古の隕石形成時(45.67億年前)の26Al量は現在の娘核26Mgの量から求めることが可能だ。今回の研究では、26Alとチタン同位体を組み合わせることで、超新星爆発による放出物の太陽系への混入割合と、超新星爆発と最古隕石形成年代の時間差が同時に計測された(出所:東大Webサイト)

太陽系の太陽以外のほぼすべての天体は、太陽を取り巻いていたガスや塵からなる原始太陽系円盤の中で誕生しており、隕石(もしくはその母天体)もそのうちの1つだ。近年、形成年代が判明している隕石の同位体分析から、円盤の内側よりも外側により多くの26Alが存在していたことが判明。それを受けて研究チームは、この26Alの存在量の不均質性が、チタンの安定同位体である46Tiおよび50Tiの存在量の不均質性と相関するという新事実を発見した。

この相関は、26Alの起源となった天体で46Tiと50Tiも核合成され、その天体の放出物が原始太陽系円盤の外側に、より多く混入したことを示すとする。チタンの各同位体の合成量は、恒星の温度や密度などの環境によって異なる。原始太陽系円盤における46Tiと50Tiの存在量の変動は、重力崩壊型超新星爆発を起こす恒星、特に太陽の約25倍の大質量星で合成されるチタンの生成量で最も良く説明できることがわかった。そしてこれは同時に、26Alの起源も重力崩壊型超新星爆発であることを意味するとする。

さらに研究チームは今回、アルミニウムとチタン同位体の相関を利用し、超新星爆発の起きた年代とその放出物の太陽系への混入割合を一緒に求める宇宙核時計を新たに考案したとのこと。その宇宙核時計を適用した結果、超新星爆発の年代は、太陽系で最も古い隕石の形成年代と比べて約90万年古いことが計測された。この年代差は、天体観測から推定されている、分子雲の収縮によって星が形成され始めてから、その星周円盤で固体物質が形成され始めるまでの典型的な時間スケールと同程度とする。つまり、超新星爆発とほぼ同時期に太陽系が生まれたことが示されているとした。

また、超新星爆発の放出物の太陽系への混入割合は、超新星と太陽系間の距離に依存することから、その距離が100光年より短いと推定された。近年の天体観測では、重力崩壊型超新星爆発の残骸の周りで次世代の恒星が生まれる姿が捉えられていることから、今回の研究成果により、太陽系もまた前の世代の大質量星の死によって生まれたことが示唆された。

26Alはこれまで、太陽系初期に形成された隕石の年代を高精度に測定する時計としても利用されてきた。しかし同測定では、26Alが原始太陽系円盤において均質に分布していたと仮定されていたという。しかし、近年その不均質分布が明らかになり、隕石年代値の改訂が迫られている。今回の研究で発見されたアルミニウム‐チタン同位体の相関は、隕石年代値の改訂に応用できるとする。同手法により精確な隕石の年代が判明すれば、より信頼性の高い惑星形成理論の構築につながることが期待されるとしている。