宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月27日、1989年2月20日に打ち上げられ、約26年にわたって地球磁気圏・電離圏の観測を行って大きな成果を上げ、2015年4月23日に運用を終了した人工衛星「あけぼの(EXOS-D)」が、自然落下により2024年11月26日13時48分(日本時間)ごろ、南米上空(南緯26.6度、西経54.1度付近)において大気圏に再突入したことを発表した。
数々の成果を挙げた衛星が宇宙の旅に終止符
「あけぼの」は、オーロラ電子の生成メカニズムやオーロラに関連する物理現象などの磁気圏や電離圏の構造やそこで起きる物理過程、そして惑星間空間を通って地球周辺のそれぞれの領域にやってくる太陽からのエネルギーと運動量の流れを解明することを目的に打ち上げられた磁気圏観測衛星だ。
打ち上げは、現在のJAXAの固体燃料ロケットである「イプシロン」の先々代となる第4世代「M-3SII(ミュースリーツー)」(IHIエアロスペースの前身である日産自動車宇宙航空部が、ハレー彗星探査機の「さきがけ」と「すいせい」の打ち上げのために開発)によって1989年2月に打ち上げられた。
同衛星は、オーロラ撮像カメラ、電場・磁場・プラズマ波動、プラズマを観測する9つの観測器を搭載し、地球の磁気圏・電離圏の観測を実施。そして、オーロラ分布が電離圏の状態にコントロールされて季節に依存すること、オーロラ電子が冬半球に偏って分布することなど、オーロラ電子の加速メカニズムに迫る科学的成果を上げた。
また11年の太陽活動周期を超える観測によって、ヴァン・アレン帯などの内部磁気圏現象と太陽活動との関係を解明することを目的とした研究にも貢献。地磁気活動に応じてヴァン・アレン帯外帯の密度・エネルギーが激しく変動することや、さらには太陽活動に応じてヴァン・アレン帯外帯が消長する様子を解明した。
「あけぼの」が成し遂げた主な科学成果
- 磁力線に平行な電場による粒子加速の実証
- 極電離圏からのイオン流出についての定量的研究
- UHR(高域混成共鳴)波動が赤道で強まることについての詳細な研究
- 低高度のプラズマ圏の熱的構造
- プラズマ圏の密度が磁気嵐の際に部分的に落ち込む現象の発見
- 放射線帯の粒子の長期的変動の観測
こうした数多くの科学成果の源となった約26年間もの長期間に及ぶ「あけぼの」の貴重な観測データは、太陽-地球系科学分野の研究にも大きく貢献。それに加え、放射線帯観測により現代文明にとって非常に重要な宇宙天気予報にも貢献した。運用期間中に取得された科学データは、科学衛星データベース(DARTS)などから世界中の研究者に公開され、太陽-地球系科学分野や宇宙天気予測などの研究に活用されている。
「あけぼの」は、遠地点高度の低下(打ち上げ当初の約1万500kmから約4000kmまで低下)に伴って日陰率が増加したことで観測機会が減少したことや、衛星システム・観測機器が経年劣化したこと(太陽電池発生電流が打ち上げ当初の13Aから約5.5Aに低下)などにより、2015年4月23日15時59分に停波作業が実施され、運用が終了した。その後、地球の大気抵抗などにより徐々に高度低下が続き、2024年11月26日に大気圏に再突入したとする。
「あけぼの」で培われた科学的問題意識は、その後の小型高機能科学衛星「れいめい(INDEX)」(2005年8月24日打ち上げ、運用中)やジオスペース探査衛星「あらせ(ERG)」(2016年12月20日打ち上げ、運用中)に引き継がれ、現在も地球磁気圏・電離圏の研究が進展中で、次々と新たな成果が発表されている。