最新の農業に根付くWi-Fi HaLow

IEEE 802.11ah標準に準拠し、サブGHz帯で動作する長距離・低消費電力無線プロトコルである「Wi-Fi HaLow」は、スマート農業の用途に対して有望な無線技術の1つであると考えられています。

IoT独特の要件に合わせて開発されたWi-Fi CERTIFIED HaLowソリューションは、屋内外のIPセキュリティカメラ、アクセス制御、スマートドアベル、産業オートメーション、および長距離接続性、電力効率、信頼性の高いカバレッジ、Wi-Fi互換性、高度なセキュリティを必要とするその他のIoTアプリケーションにとっても魅力的であることが証明されています。Wi-Fi HaLowの幅広い訴求力は、世界の食糧供給に変革をもたらそうとしています。

Wi-Fi CERTIFIED HaLowソリューションのプロバイダであるモースマイクロは、Wi-Fi HaLowの優れた長距離到達能力を実証するデモンストレーションを行いました。同社は、Wi-Fi HaLowを使ったライブ双方向ビデオ通話でWi-Fi接続性の記録を更新し、サンフランシスコのオーシャンビーチ地区で3kmという到達距離を達成し、同プロトコルの能力を示しました。

この長距離到達の記録を打ち立てたプロトコルを、長到達距離が求められるスマート農業の接続性ニーズに適用できることは容易に想像できます。Wi-Fi HaLowは、作物や家畜の遠隔監視および管理において新たな可能性を開きます。土壌水分レベルの追跡から動物の行動の監視まで、Wi-Fi HaLowを搭載したIoTセンサーは農家や牧場主にリアルタイムで有用情報を提供し、より効率的な資源配分と収穫量の最大化を可能にします。

Wi-Fi HaLowを利用して地方の情報技術格差を解消するZetifi

農業分野における接続性ソリューションに革命を起こすことを目指して、モースマイクロとオーストラリアの無線技術の開発企業であるZetifi(ゼティフィ)は、農家や農村地域の住民が直面する独特な長距離通信の課題に取り組むべく協力してきました。この協力関係により、Wi-Fi HaLow技術がZetifiの革新的な遠隔地接続性のソリューションに統合され、農家の作業全体にわたり、高信頼性・高速無線接続性への卓越したアクセスが提供されます。

Zetifiの既存製品であるZetiCellとZetiRoverは、農場全体のWi-Fi接続性のバックボーンとして機能します。ZetiCellは到達距離が長いWi-Fi小型セルで、農家や機械小屋での接続性を確立し、ZetiRoverは車両や機械に搭載されたローミングWi-Fiホットスポットとして機能します。モースマイクロのWi-Fi HaLow技術との統合により、これらの無線ソリューションが次の段階にまで引き上げられることが期待されます。

IoT向けに最適化された初のWi-Fi規格として開発されたWi-Fi HaLowは、通信範囲の拡大、透過能力の向上、電力効率の向上により、農業環境に最適です。モースマイクロのWi-Fi HaLow SoCを使用すると、農家は地形や植生などの自然障害による接続性の課題を克服し、農場内のインフラと農場外の車両や機械類との間のシームレスな通信を確保できます。このSoCはIEEE 802.11ah規格に準拠しており、1MHzから8MHzまでの帯域幅をサポートしています。これは、農家がHDビデオストリーミングや双方向音声通信などのデータ集約型アプリケーションを低帯域幅のIoTセンサーネットワークに展開できるようにする様々なスループット機能に変換されます。さらに、Wi-Fi HaLowの超低消費電力により、バッテリー駆動の無線センサーの導入が可能になり、農家はコンセントが利用できない遠隔地でも、必要な場所にセンサーを設置するための自由度を高めます。

モースマイクロのWi-Fi HaLow技術を搭載したZetiRoverの導入により、農家は従来の農場の境界を越えて接続性を拡張できるようになります。このモバイルホットスポットは、遠隔地と中央の農場運営との間の通信を容易にし、精密農業、遠隔監視、および接続性に依存した自律型機械の統合への新たな可能性を開きます。

Wi-Fi HaLow技術は、Zetifiの接続性ソリューションの範囲を最大3kmまで拡大し、農家の広大なオペレーションにわたり、堅牢な無線の接続性を提供します。Wi-Fi HaLowの能力を活用することで、農家は作業フローを最適化し、生産性を向上させ、農業の未来を再構築するデジタルの進歩を享受できます。

農業分野で加速化するデジタルトランスフォーメーション

農業分野におけるモースマイクロのゼティフィとの協力関係を説明するために、Wi-Fi HaLowがスマート農業の変革にどのように役立つのかを以下、いくつか例を挙げます。

IoTセンサーによる遠隔監視

Wi-Fi HaLowを使用すると、農場全体に多数のIoTセンサーを展開し、土壌水分、温度、作物の健康状態などの重要なパラメーターをリアルタイムで監視できます。航続距離が長く、消費電力が少ない電池式の無線センサーは、重要なデータを長距離にわたって確実に送信できるため、農業従事者は灌漑スケジュールを最適化し、作物の病気を早期に検出し、収穫量と資源管理を改善するためのデータに基づく意思決定を行うための実行可能な洞察力を得ることができます。

精密農業

Wi-Fi HaLowは、スマート農業機器と集中管理システムとの間の信頼性の高い通信を可能にすることで、精密農業技術の導入を容易にします。自律型トラクターから無人航空機(UAV)まで、Wi-Fi HaLowを搭載したコネクテッドデバイスはリアルタイムでデータを交換し、地域の土壌条件や作物の要件に基づいて正確な播種、施肥、農薬散布を可能にします。この目標を定めたアプローチは、環境への影響を低減しながら、投入材の無駄を最小限に抑え、作物の品質を高め、潜在的な収穫量を最大化します。

家畜管理の強化

Wi-Fi HaLowは、その魅力的な技術優位性により、農場の遠隔地への基本的な接続以外の用途が可能になります。Wi-Fi HaLow対応IoTソリューションを使用した家畜からのリアルタイムデータは、農家に重要な有用情報を提供します。牛、羊、山羊、およびその他の家畜にWi-Fi HaLow対応センサーを組み込んだスマート首輪やタグを装着することで、農家は健康状態、位置、行動をリアルタイムで監視できます。このデータ駆動型アプローチは、病気の早期発見、放牧パターンの追跡、給餌スケジュールの最適化を可能にし、動物福祉の改善、生産性の向上および運用コストの削減につながります。

モバイル接続性ソリューション

ゼティフィのZetiRoverのようなWi-Fi HaLow対応モバイルホットスポットの導入により、農場労働者は遠隔地でも接続状態を維持できます。農業機械を操作する場合でも、実地調査を行う場合でも、作業者はリアルタイムデータにアクセスし、同僚と通信し、クラウドベースのアプリケーションをシームレスに活用できます。このモバイル接続性により、生産性が向上し、協力関係が容易になり、場所に関係なく重要な仕事を効率的に実行できるようになります。

データ駆動型の意思決定

Wi-Fi HaLowの能力を利用して農場全体の堅牢な無線インフラを確立することで、農家はIoTデバイス、機械、環境センサーによって生成された膨大な量のデータを収集して分析することができます。このデータは、作物の選択、資源配分およびリスク管理に関する情報に基づいた意思決定を行うための貴重な資源として役立ちます。高度な分析と機械学習アルゴリズムは、このデータを活用して予測する有用情報を提供し、農家が課題を予測し、作業フローを最適化し、収益性を最大限に高めるのに役立ちます。

まとめ

Wi-Fi HaLow技術は、農業エコシステム全体の効率、生産性、持続可能性を向上させる一連のソリューションを提供し、現代の農業において大きな可能性を持っています。モースマイクロとゼティフィとの協力関係は、現在進行している農業革命を加速するための無線技術の活用における重要な一歩となります。IoT、精密農業、モバイル接続性の能力を活用することで、農業従事者は技術革新の新たな機会を切り開き、優れたオペレーションを推進し、増加する世界の人口を養うという課題に対処することができます。

本記事はモースマイクロが「AgriTomorrow」に寄稿した技術記事を邦訳・改編したものとなります