文部科学省主催の「宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合」が3月8日、オンラインで開催され、前日に打ち上げを失敗したばかりのH3ロケット初号機について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から報告が行われた。原因についてはまだ調査中だが、最新情報として、電源系統に異常が見つかったことが明らかにされた。

  • 種子島宇宙センターより打ち上げられたH3ロケット初号機

    種子島宇宙センターより打ち上げられたH3ロケット初号機

H3ロケット初号機は3月7日10時37分55秒に打ち上げを実施。第1段・第2段の分離までは完璧に見えたが、その後、第2段エンジンに着火しなかったことから、地上から指令破壊信号を送出。ミッションの達成に失敗していた。当日の様子について、詳しくは現地レポートの記事を参照して欲しい。

参考:第2段の不着火により打ち上げは失敗、JAXAは原因究明を急ぐ

JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャはまず、フライト結果について説明。ここで目を引くのは、シーケンスの各イベントが、かなり予定通りに進行したということだ。通常は、推力の誤差などによって、数秒レベルのバラ付きが出るものだが、1秒の誤差しか出ていない。これは、H-IIAに比べても、極めて小さい。

  • 打ち上げの結果。経過秒を比較すると、途中まではほぼ予定通りだった

    打ち上げの結果。経過秒を比較すると、途中まではほぼ予定通りだった (C)JAXA

打ち上げは失敗したとは言え、H3ロケットでは開発に難航した第1段エンジン「LE-9」を始め、固体ロケットブースタ(SRB-3)やフェアリングなど、様々な新規開発が行われた。SRB-3ではよりシンプルな新しい結合・分離方式を採用しており、そういった部分が完璧に動作したというのは、大きな成果である。

  • こちらは高度履歴。第2段エンジンが着火せず、放物運動で落下している

    こちらは高度履歴。第2段エンジンが着火せず、放物運動で落下している (C)JAXA

初号機では、その後の第2段でトラブルが発生したわけだが、そのあたりの状況を改めて整理しよう。第2段エンジンの着火シーケンスは、第1段エンジン燃焼停止(MECO)からスタート。まず第1段・第2段の分離が行われ、続いて第2段エンジンに着火を指示(SEIG)、その着火を判定する(SELI)という流れだった。

  • 第2段エンジンの着火シーケンス

    第2段エンジンの着火シーケンス。今回は、この着火が確認できなかった (C)JAXA

岡田プロマネによれば、機体からのテレメトリデータは概ね良好に受信できているとのことで、これまでの調査により、機体側が着火指示を送り、エンジン側がそれを受信したことまでは確認できたという。

H3ロケットの電気系システムは、H-IIAから大きく変わっている。従来は、機器間を1対1で繋げていたのに対し、H3ではよりシンプルなネットワーク方式を採用していた。当初、この大きな変更による影響も疑われていたが、エンジン側に着火指示が届いていたということで、少なくとも、この部分は問題が無かったと言えるだろう。

  • 第2段のネットワーク構成

    第2段のネットワーク構成 (出典:第63回宇宙科学技術連合講演会講演集「H3ロケット 電気系システム開発状況について」)

ではなぜ着火しなかったのかということについては、まだ分かっていない。ただ今回、新たに判明したのは、この着火指示の前後において、電源系統の異常を確認したということ。これ以上の詳細については説明が無かったため、どんな現象だったのか不明だが、機体側とエンジン側、どちらの要因なのかは現在調査中とのことだ。

少し気になるのは、2月の打ち上げ中止での事象との類似性だ。このときは、電気的離脱時に発生したノイズにより、FPGAが誤作動、第1段エンジンの電源系統に異常が発生していた。水平展開として、第2段側にも同様の対策を施したとしており、同じ問題が発生するのは考えにくいが、関係性の有無については、今後明らかになるだろう。

H3の第2段エンジン「LE-5B-3」は、H-IIAの「LE-5B-2」を改良したもの。比推力と燃焼秒時の向上のために一部で設計変更はあったものの、岡田プロマネによれば、電気系については基本的には同様で、H-IIAと共通化を図っていたという。ただし、設計を変えている部分もあり、H3のみの問題なのかどうかは、さらなる調査が必要だ。

心配なのはH-IIAロケットへの影響である。H-IIAの第2段はこれまで一度も失敗しておらず、問題があるとはやや考えにくいところなのだが、少なくとも、今回の原因場所を特定し、影響が無いことが判明するまで、打ち上げを止めることになるのは間違いないだろう。

H-IIAロケットは、H3の影響で遅れていたX線分光撮像衛星「XRISM」/小型月着陸実証機「SLIM」の打ち上げを控えている(47号機)。またH3自身も2号機ですぐ先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)を打ち上げる計画で、早期の原因究明と対策完了が求められる。

電気系の問題だった2月の打ち上げ中止では、原因の究明に2週間近くかかっていたが、今回の問題でどのくらいを要するのかは予測が難しい。今後、フライトデータを元にFTA(故障の木解析)を行い、部品やコンポーネントの製造・検査データの検証なども並行して進めていくことになるだろう。

なお、H-IIロケット8号機の打ち上げ失敗では、海底からエンジンを回収し、分析の大きな手がかりとなったが、JAXAは現時点では行わない方針。岡田プロマネも、「H-IIの場合、起きた現象はエンジン内部の流体や機械的なものだったので、実物を見ることに大きな意味があったが、今回は電気関係が原因だろう」とし、改めて否定的な見方を示した。

  • 回収された「LE-7」エンジン

    回収された「LE-7」エンジン。JAXA角田宇宙センターで見ることができる

この有識者会合の次回会合については、来週をめどに開催する予定とのこと。引き続き、原因究明の進捗には注目していきたい。