東京理科大学(理科大)は2月20日、バラの香り成分である「β-ダマスコン」が、免疫細胞の「樹状細胞」による炎症性サイトカインの分泌や、同じく免疫細胞の「ヘルパーT細胞」の活性化を抑制する作用を有することを明らかにしたと発表した。

また、接触過敏症マウスを使った生体内実験において、適量のβ-ダマスコンを経口投与することで、マウスの皮膚炎の病態緩和を実証できたことも併せて発表された。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:理科大Webサイト)

同成果は、理科大 先進工学部生命システム工学科の西山千春教授らの研究チームによるもの。詳細は、人間の健康に焦点を当てた栄養分野を扱う学術誌「Frontiers in Nutrition」に掲載された。

ヒトの免疫には、「自然免疫」と「適応(獲得)免疫」の2種類がある。その中ではさまざまな免疫細胞が働いており、樹状細胞は、体内に侵入してきた細菌やウイルスの特徴を認識して細胞膜表面に抗原ペプチドを提示する役割を担う。この働きによって、T細胞受容体がその抗原ペプチドを認識し、抗原特異的なT細胞が増殖・活性化することで、免疫応答が誘導されるのである。

このように免疫反応の初期段階において重要な役割を果たしているのが樹状細胞だが、何らかの原因により過剰に活性化して制御できなくなると、自己組織の損傷を引き起こし、炎症や自己免疫疾患につながってしまう。そのため、樹状細胞の働きを制御できる物質が探索されてきた。

研究チームはこれまで、香料化合物の生理活性に関する研究を手がけてきた。しかし現状、個々の香料化合物に関して、それらが有する生理活性、中でも免疫反応にどのような作用を示すのかについては、あまり研究が行われていないという。つまり、未知の可能性を秘めた物質が存在するかもしれないということである。

今回の研究では、まず香料化合物ライブラリにおいて2段階のスクリーニングが行われた。第1のスクリーニングでは、抗原提示細胞により活性化されるT細胞の増殖を調べ、樹状細胞の免疫抑制物質の候補として150種類の中から約20種類の化合物を選択。第2のスクリーニングでは、サイトカインの一種である「インターロイキン2」(IL-2)の産出を抑制する物質を調べ、β-ダマスコンが選出されたとのこと。同化合物には、ヘルパーT細胞の「Th1細胞」への分化を抑制する働きがあることが示唆されたという。

一部の植物由来の化学物質は、ストレスセンサ「Keap1」に直接作用することで転写因子「NRF2」を活性化し、防御反応を誘導することが知られている。そこで次に、β-ダマスコンが樹状細胞のNRF2を活性化するかどうかを確かめるため、β-ダマスコンを作用させた時のNRF2を調べることにしたとする。その結果、NRF2タンパク質レベルは増加することが判明。また、NRF2のターゲット遺伝子である「Hmox1」と「Nqo1」のmRNAも著しく増加することが明らかにされた。これらの増加は、β-ダマスコンが樹状細胞のNRF2経路を活性化したことを示唆しているという。

続いて、接触過敏症マウスを使用した生体内実験が行われた。同実験では、通常のマウスではβ-ダマスコンを投与するとマウスの接触性皮膚炎の病態が改善されていたのに対し、NRF2をノックアウトしたマウスでは皮膚炎改善効果が見られなくなったとする。

これらの研究結果から、β-ダマスコンが樹状細胞を介した免疫応答や炎症反応を抑制することが見出され、樹状細胞におけるNRF2シグナル経路の活性化が根本的な原因の1つであることが解明された。

今回の研究においては、150種類ほどの香料化合物からβ-ダマスコンが選抜されたが、香料化合物は世界中に3000種類以上存在するといわれており、氷山の一角に過ぎないという。研究チームは、香料化合物の中にはまだ「お宝」が眠っている可能性が十分に考えられるとしている。