今年後半にはCSS完成、さらなる有人飛行も

中国は今後も、CSSの組み立て、そして宇宙飛行士の滞在を続ける計画を打ち出している。

まず5月には、無人補給船「天舟四号」を打ち上げ、CSSへ物資を補給。6月には、新たに3人の宇宙飛行士が乗った「神舟十四号」の打ち上げも予定されている。搭乗する飛行士の名前などはまだ公開されていない。

さらに7月には、「問天」モジュールを打ち上げ、天和に結合。10月には「夢天」モジュールの打ち上げ、結合も予定されている。問天と夢天はそれぞれ、宇宙飛行士の居住設備のほか、研究、実験設備ももつ宇宙実験室として活用。さらに、宇宙飛行士が船外へ出るためのエア・ロックや物資の保管庫などももつ。これらが結合されると、CSSはT字の形となり、いちおうの完成を迎える。

また同じ10月には、3人の宇宙飛行士が乗った「神舟十五号」の打ち上げも予定されており、先にCSSに滞在している神舟十四号のクルー3人と数日間同居。一時的に6人体制で運用されることになる。

CSSは夢天の打ち上げ、結合をもって完成とされるが、2024年ごろには「巡天」と呼ばれるモジュールの打ち上げも計画されている。巡天は宇宙飛行士の滞在設備などはもたず、全体が光学望遠鏡となっているモジュールで、米国の「ハッブル宇宙望遠鏡」に匹敵する性能をもつとされる。

また、巡天は恒久的な結合はされず、CSSと編隊飛行しながら宇宙を観測し、ときどき推進剤の補給やメンテナンスのためドッキングする。宇宙望遠鏡にとって振動は大敵であり、人が活動するモジュールと結合するのは得策ではない一方、宇宙飛行士がいれば修理や調整などが行いやすいため、メリットの多い運用方法である。

  • 神舟十三号

    CSSの完成予想図 (C) CMSE

中国はまた、CSSの運用開始後を見据え、2020年に新しい宇宙飛行士候補を18人選抜。現在訓練が行われている。

この選抜では、従来からあった宇宙船のパイロットだけでなく、宇宙船やステーションの制御・管理や技術実験の実施を担当する「宇宙飛行技術者(フライト・エンジニア)」と、ステーションにおける宇宙実験の運用を担当する「載荷専門家(ペイロード・スペシャリスト)」の役割を新たに追加。パイロットは引き続き空軍のパイロットから選ばれたものの、宇宙飛行技術者は航空宇宙工学やその関連分野を専門とする技術者の中から、載荷専門家は有人宇宙工学の宇宙科学研究や応用分野に従事する研究者の中から選ばれており、中国では初めて、民間人出身の宇宙飛行士が誕生することになった。

さらに、神舟の後継機としてCSSへの飛行、そして有人月・火星探査を見据えた、新型宇宙船「新世代有人宇宙船」の開発も行われている。3人乗りの神舟よりも大きく、最大7人の宇宙飛行士が乗ることができる。

2016年には実機の約60%の大きさの試験機が飛行に成功。2020年5月5日には、実機とほぼ同じ試験機の飛行試験を実施し、3日間の宇宙滞在ののち、地球への帰還に成功している。

また、新世代有人宇宙船の打ち上げに使う、中国の次世代ロケットの試験飛行も続いている。

CSSの完成、新しい宇宙飛行士の誕生、そして新世代有人宇宙船の実用化によって、中国は国際宇宙ステーション(ISS)と並ぶ、地球低軌道における大きな橋頭堡をもつことになる。すでに国連宇宙部を通じて、世界各国の研究機関や大学などからの宇宙実験の受け入れなども進めており、そのプレゼンスもISSと並ぶものになろう。

  • 神舟十三号

    CSSの船内 (C) CMSE

有人宇宙開発は加速するか、そしてレジリエンスは

今後の中国の有人宇宙開発で最も注目すべきは、そのスピードである。

中国はこと有人宇宙開発においては、きわめて慎重な歩みを見せてきた。しかし、これからCSSの完成、新しい宇宙飛行士の誕生、そして新世代有人宇宙船の実用化によって、そのスピードが加速する可能性がある。

はたしてその度合いがどの程度のものなのか、最盛期のソ連や、最近のスペースXに匹敵する飛行頻度になるのかなどはとくに注目すべきであり、それは中国の宇宙開発全体のパワーを推し量る指標ともなろう。

また同時に、事故などが起こったときの回復力や弾力性、いわゆる「レジリエンス」にも注目すべきである。

ISSの運用においては、地球とを往復する有人宇宙船をは米国とロシアがそれぞれ運用しており、補給物資を輸送する補給船も米国とロシアが(過去には欧州、日本も)運用しており、冗長性が確保されている。

しかし、中国にはそれがなく、一本のロープで綱渡りしているよう状態が続く。もし今後、宇宙飛行士の命にかかわるような大きな事故が起きたり、ロケットの打ち上げ失敗、補給船のミッション失敗などで補給が途絶えたりした場合、運用できなくなる危険性はISSよりも高い。

中国の有人宇宙開発は、幸いにも米ソのように大きな事故を経験したことはない。だが、今後もそうした事態をいかに防ぎ、そして万が一起きた場合にはそこから立ち直ることができるのか、言葉を変えれば命をかけてでも運用を続けるだけの覚悟があるのかという点も、今後の焦点となろう。

CSSの本格的な運用開始という大きな一歩を踏み出した中国の有人宇宙開発。その行く末に今後も注目である。

  • 神舟十三号

    2021年9月に撮影された、CSSから見た地球 (C) CMSE

参考文献

http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202204/t20220416_49536.html
http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202204/t20220419_49602.html
http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202204/t20220421_49610.html