地球上空400kmを飛行する国際宇宙ステーション(ISS:Internatinal Space Station)が思わぬことから注目されています。ポイントはISSの維持に必要な噴射をしないと、最悪ISSが軌道を逸脱し、地上に落下しちゃうということです。あれ? ISSのような人工衛星って、地球の丸みにそって落ち続けるから落下しないんじゃないっけ? いやそうでもないんですな。今回はそんなお話をいたしますねー。

「前澤さんの旅行先」としても有名になった国際宇宙ステーション(ISS)は、史上最大の有人宇宙施設です。大きさはよく「サッカーグラウンドなみ」と言っていますな。高校のグラウンドが選手権のサッカー一面とれるくらいだったので、あそこ一杯かーという感じですが、ちょっと思い出せないところもありますな。んで、マイクロソフトのワードなどで「挿入」「3Dモデル」するとISSのモデルもあるので、他の3Dモデルと一緒にいろいろ並べてみました。飛行機はたぶんボーイング737NGかなーとか、クジラはナガスクジラかなーとか曖昧でおおざっぱですが、そこはまあ許してください。しかし、でかいですな。

  • ISSの大きさ比較

さて、この巨大なISSは、地上高度400kmを保ちながら地球を巡る人工衛星です。人工衛星は、ひとたび必要な水平方向の速度を与えると、地球大気にぶつかりブレーキがかからないかぎり、そのまま回り続けます。

たとえば1970年2月11日に打ち上げられた日本初の人工衛星おおすみは、打ち上げ後15時間で電池切れになり、一切のコントロールができなくなりましたが、2003年8月2日まで実に33年間も地球を周回していました。

まあ、天然の衛星である月は46億年間も地球を回り続けておりますけれどね。

さて、地球の大気にぶつからないかぎりと書きましたが、地球の大気はどの高さまであるのかが問題でございます。俗に宇宙は高度100kmからというわけですが、実は地球の大気は100km以上でもあります。それが地上からわかるのがオーロラの発光です。

オーロラはまれに北海道でも見られるのですが、これは地平線のはるか向こうの巨大なオーロラの上部が見えるのでございます。そして、このオーロラは、宇宙から飛び込む電子と地球の大気の衝突で発光しています。つまりオーロラは地球の大気が光っているので、オーロラが見える=大気があるということなのです。巨大なオーロラは、高度500kmくらいまで光ります。

もちろん空気としては「真空といっていいくらい薄い」のですが、ゼロではございません。そして秒速8km、時速にすると3万kmという高速で移動する人工衛星にとっては無視ができないブレーキ効果があるのでございます。これは高度が低いほど大気が濃いため顕著で、1957年10月4日に打ち上げられた史上初の人工衛星スプートニク1号は、地球を焦点にした楕円軌道で地球を周回していました。遠いところでは高度950kmでしたが、近いところでは高度が230kmでした。そのため大気のブレーキが大きくかかり、3か月後の1958年1月4日に地球に落下しています。

ISSの高度は400kmです。スプートニクよりは高いのですが、オーロラが発光する高度です。ちな、ISSからオーロラが直下に見える映像などが公開されています。本当にオーロラ上部に突っ込んでいくような感じですな。

ということで、ほっておくとISSは地球に落下するのでございますな。ちなみに総重量は445トンもあります。これまでもいくつもの宇宙ステーションが地上に落下していますが、アメリカのスカイラブが77トン、中国の天宮1号、2号が9トン、旧ソ連のサリュート1~7号が18~20トン、日本人のTBS社員(当時)秋山さんも搭乗したロシアのミール宇宙ステーションで120トンあまり(北海道の苫小牧市にミールの予備機が展示されていますが大きさがわかります)。

ISSの445トンはとびぬけて巨大ですな。

ちな、スカイラブはオーストラリアの平原に落下しました。部品がそこら中にとびちり、重さ1トンの燃料タンクが地面に到達しています。また、ミールは運用予算の打ち切りで大気圏に制御させながら突入しました。日本上空を150kmを通って、南太平洋に落下させたのですが「万一のために」日本でも室内待機するようにという要請があったそうです。まあ、落下を利用して研究しようって話もあったようですが。で、結構な大きさの残骸が太平洋に落ちたらしいのですな。

そういうこともあるので「ほっておけない」のでございます。

さて、ISSの高度は公開情報でして、それをグラフ化しているサイトは結構あります。人工衛星ファンには有名なHEAVENS ABOVEなどですな。これを見ると、ISSが時々高度を上げているのがわかります。これはもちろん、ロケット噴射で上昇させているのでございます。まさに、水面下の白鳥が必死なように、頻繁に軌道変更を行っています。これは大きな衛星やその破片を避けるための軌道もございます。

ところでISSは、その名の通り15か国=(アメリカ、日本、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、スペイン、オランダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ロシア)の共同事業です。

この中で骨格をなすモジュールを提供しているのが、ロシアとアメリカです。両方とも単独で宇宙ステーションを運用した実績がある国です。そしてロシアは脱出用の宇宙船と補給機プログレスがドッキングするポートを提供しており、このプログレスのエンジンを使って軌道の上昇下降などの変更を行うのでございます。ロシアのモジュールはISSの「白鳥の必死な水かき」軌道変更には重要なのでございます。

  • ISSのユニット

    ISSのユニット。軌道変更するプログレス補給機はロシアのもので、ロシアユニットに接続されている。ドッキングポートが違うので、反対側には日、米、欧のものが接続される

で、この記事を書いている最中はご承知の通り、ロシアはえらいことになっております。世界中と直接、間接に衝突している状況であり、それが宇宙にも波及しています。

もうそれは「琵琶湖の水止めたる」と滋賀が京都、大阪にいうがごときでして(いや、これはよくいわれる冗談です。真に受けないように)。「ISS落ちてもしらんど」という話なのですな。

まあ、もっとも、ISSの補給機は他に日本のこうのとりと、欧州のETV、アメリカのノースロップグラマン社のシグナス、アメリカ・スペースX社のドラゴンがあります。うちETVによる軌道変更の実績はあります。ただ、こうのとりとETVは運用終了です。シグナスとドラゴン(ドラゴン2)は、軌道変更の能力がありませんでした。

が、シグナスについては改良型が軌道変更のデモンストレーションに2018年に成功しています。2022年現在はこのシグナスがISSにドッキングしており、ロシアのプログレス抜きでも、一応軌道変更はできます。

また、すぐに(1年とかで)落ちるわけでもないので、ドラゴン2の製造元であるスペースXのイーロン・マスク社長は「うちがやったるで」と言っておりますな。

ところで、ロシアの先代の宇宙ステーション「Mir(ミール)」は「平和」という意味です。平和あってこそいろいろなことができるわけで、一刻も早く状況が改善されるよう願わずにいられません。