東京都健康長寿医療センターは3月4日、要介護化(要支援・要介護状態の新規発生)には、男女一貫して身体組成(骨格筋量・脂肪量)よりも身体機能(握力・歩行能力)が強く影響する一方、余命には、男性では骨格筋量、女性では脂肪量が、それぞれ身体機能とは独立して影響することが確認されたことを発表した。

同成果は、東京都健康長寿医療センター 研究所 社会参加と地域保健研究チームの藤原佳典研究部長らの研究チームによるもの。詳細は、サルコペニアと筋肉喪失、体組成などを扱う学術誌「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載された。

高齢期の身体組成(骨格筋量・脂肪量)や身体機能(筋力・歩行能力)は、要介護化や余命に対して異なる影響を持つ可能性があることを考察されている。しかし、各指標の健康予後に対する独立した影響やその関連の形状については十分に検討されておらず、特に欧米人に比べて痩せた体型のアジア人を対象としたデータは、絶対的に不足しているという。

そこで研究チームは今回、日本人高齢者の身体組成(骨格筋量・脂肪量)と身体機能(握力・歩行能力)が、要介護化・余命に及ぼす独立した影響を量・反応分析法を用いて検討することにしたとする。

今回対象としたのは、群馬県と埼玉県の高齢者健診受診者1765名(男性862名、女性903名、平均年齢72歳)で、平均5.7年(最大9.5年)間の追跡研究を実施。身体組成指標として、体内に微弱な電流を流して体水分量から筋肉量や体脂肪量などを間接的に求める生体電気インピーダンス法で求めた(1)骨格筋指数(四肢の筋肉量を身長の2乗で除したもの)と(2)脂肪指数(全身の脂肪量を身長の2乗で除したもの)、身体機能指標として(3)握力と(4)通常歩行速度がそれぞれ評価され、これら4指標と新規要支援・要介護認定および総死亡との関連形状が分析された。

その結果、男女とも一貫して、骨格筋量や脂肪量に関わらず、筋力・歩行能力が高いほど要介護状態になりにくく、低いほどなりやすいという関係性が明示されたという。一方、余命にも筋力・歩行能力が強く影響するものの、これらとは独立して、男性では骨格筋量が多いほど余命が長いという正の関係性が見られたほか、女性では脂肪量が高値であっても余命に有意な影響はなかったものの、脂肪量が少ないほど余命が短いという関係性が示されたとする。

今回の研究成果を受けて研究チームでは、高齢期の介護予防では、骨格筋量・脂肪量が多い/少ないに関わらず、まずは身体機能の維持・向上を一次予防のターゲットと据えるべきであることが明確になったとしており、定期的な筋力運動などの実践によって、日常生活動作を円滑に遂行できるよう筋力や歩行能力を保持しておくことが重要だと指摘している。また、余命延伸の観点では、身体機能の維持・向上だけでなく、骨格筋量(男性)や脂肪量(女性)の減少による痩せにも注意を払う必要があり、運動実践とタンパク質をはじめとした多様な食品の摂取を組み合わせることが重要だとしている。

  • 余命への骨格筋量や脂肪量の影響

    (A)介護予防への独立した影響。(B)余命への独立した影響 (出所:プレスリリースPDF)