横浜国立大学(横浜国大)、東北大学、慶應義塾大学(慶大)、東京大学(東大)の4者は1月31日、「(周波数)人工次元」と呼ばれる周波数列のユニークな光学現象を、光集積プラットフォームである「シリコンフォトニクス」を用いて実証することに成功したと発表した。

同成果は、横浜国大のアルマンダス・バルシティス研究員(現・ロイヤルメルボルン工科大学所属)、同・馬場俊彦教授、東北大の小澤知己准教授、慶大の太田泰友准教授、東大の岩本敏教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学誌「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。

トポロジカル絶縁体は、表面のみ電流が流れるという特殊な物質であり、トポロジカルフォトニクスは、光の伝搬が表面のみで起こる構造体や現象を扱う分野で、トポロジカル絶縁体と同様に、構造が不完全でも光の伝搬が安定し、従来は困難だった光集積回路が可能になると期待されている。

また、近年では、空間のみならず、周波数を次元として用いたトポロジカル構造を作る方法が提案され、光を用いた人工次元の形成なども話題となるようになってきたが、これまでの実験は光ファイバを組み合わせた大型な装置を用いる必要があり、応用を議論できるような状況ではなかったという。そこで研究チームは今回、オンチップの実験装置を組み上げ、その効果の実証を行ったという。

実験装置は、シリコンCMOSプロセスを用いた、光変調器を内蔵したリング状の光学共振器(リング共振器)をチップ上に形成。リング共振器に高周波電圧を加えて電気光学的に変調を行い、光学的な振る舞いの観測を行ったところ、そのときの変調周波数や位相を操作して電場や磁場を模擬した作用が実現され、周波数方向の光の振る舞いを自由に操ることに成功したという。

トポロジカルフォトニクスでは、素子の表面にのみ光が伝搬することから、従来にない機能や安定性が得られることが期待されており、これにより、戻り光の影響を受けない安定性の高いレーザーなどの実現可能性が出てくると研究チームでは説明するほか、光集積回路内の不要な光ノイズが減少することで、これまでは不可能だった大規模光集積回路も実現できる可能性があるとしている。

なお、周波数人工次元では、これまで難しかった超高周波の光変調や、高性能な光フィルタを実現できる可能性もあることから、現在、研究開発が進む次世代ネットワーク用の光電子融合回路の基盤技術となったり、現在は1次元に留まっている周波数軸を2次元に拡張できれば、本格的なトポロジカルフォトニクス現象の観測もできる可能性が示唆されるともしている。

  • シリコンフォトニクス

    (上)人工次元フォトニクス素子の構造。(下)人工次元フォトニクス素子によって形成された周波数列。挿入図は変調器に掛ける電圧信号の周波数と位相を調整することで、磁場を掛けたのと似た効果が現れる様子が表されている (出所:プレスリリースPDF)