2026年6月2日~5日の期間において、台湾・台北市で開催された世界最大級のコンピュータ見本市「COMPUTEX TAIPEI 2026」。同見本市でエンタープライズ市場へ大きく舵を切る戦略を打ち出していたのがSynology(シノロジー)だ。今回、Synology Japan 代表のJoanne Weng氏に日本のエンタープライズ市場に向けた戦略などについて話を聞いた。

  • Synology Japan 代表のJoanne Weng氏

    Synology Japan 代表のJoanne Weng氏

Synologyの事業概要とソフトウェア主導の強み

Synologyは2000年に創業し、当初はコンシューマおよびSMB向けのNAS(Network Attached Storage:ネットワーク接続ストレージ)製品を中心に事業を展開。グローバルにおける売上比率はBtoBが60%、コンシューマが40%となっている。主要市場は米国とドイツであり、2018年に日本法人を設立している。

同社の強みは自社開発のソフトウェアエコシステムであり、ハードウェア上で動作するOS「DiskStation Manager(DSM)」を核とし、統合された製品群を展開している。製品は「データストレージ」「データバックアップ」「監視」「生産性ツール」の4つに大別される。

AIの普及に伴い、データ管理・保護、データ主権、バックアップ、ランサムウェア対策といった課題が顕在化している。同社ではオンプレミス/クラウド両対応のデータ管理、一元的なバックアップ、セキュアなデータ管理基盤を提供価値に据えている。

日本市場での課題、ブランド認知とチャネル戦略の壁

日本市場の顧客は製造業を中心に、さまざまな業界で導入されている。Weng氏は日本市場における最大の課題として「依然としてコンシューマ/SMB向けNASベンダーであると認識されている点にあります。このイメージはエンタープライズ市場への参入において大きな障壁になり、エンタープライズ企業からの信頼獲得が難しいことに加え、営業サイクルも長期化します。そして、市場教育と認識の変革に向けては時間とコストが自ずと必要になります」と説明する。

また、日本におけるチャネルパートナー戦略も課題の1つと同氏は明かす。現状では物流面に強みを持つディストリビューターが存在しているが、エンタープライズの案件にはSIerやVAR(Value Added Reseller:付加価値再販業者)との連携が不足しているという。

同氏は「コンサルティングやシステム統合、業界知識を活用した提案などの要素が不足し、大規模案件への対応力には限界があります。結果として、これまで大規模案件への参入機会が制約されたり、ターゲット企業へのリーチが不足したりしていました」と振り返る。

しかし、アジア地域に目を向けるとマレーシアやベトナムではCTC(伊藤忠テクノソリューションズ)、NTTなどの大手日系SIerと連携し、日本企業を含むエンタープライズ案件の獲得に成功しており、こうした成功モデルを日本でも再現したい考えだという。すでに国内ではSB C&Sと連携強化に取り組むことを検討している。

エンタープライズ市場攻略に向けた戦略とパートナー施策

そのため、日本市場において同社は「コンシューマ中心のブランドからの脱却」と「エンタープライズ向けITベンダーとしての認知確立」を目標している。

Weng氏は「ストレージやバックアップ、監視、生産性ツールを統合した製品群の認知拡大が不可欠です。エンタープライズ顧客の拡大を狙い、信頼性とコスト効率の高いベンダーとして評価の向上を目指します」と力を込める。

  • Weng氏

    Weng氏

一方、日本市場では成長には大手SIerとの強固なパートナーシップ構築も不可欠だ。こうしたことから、パートナー向けに製品・ソリューションに関する継続的なトレーニングやプログラムの提供、共同プロモーションによるマーケティング連携などに取り組む。

日本市場で主要プロダクトと位置付けるデータストレージ/バックアップに関しては、専任の営業チーム担当し、市場機会の獲得を狙う方針だ。

Synologyにとって日本市場は、単なる地域展開の1つではなく、エンタープライズベンダーとしてのブランド確立を左右する重要なステージだ。特に、SIを中心とした販売構造や既存ベンダーへの信頼の厚さから、新規プレイヤーの参入ハードルは決して低くない。

一方で、データ量の爆発的増加やランサムウェアの高度化などを背景に、バックアップやストレージの再評価が進んでいるのも事実だ。こうした環境下において、ソフトウェア主導の統合プラットフォームとコスト競争力を武器とするSynologyが、どこまで存在感を高められるか。今後はSIパートナーとの連携強化と市場教育を軸に、日本市場での認知転換を着実に進めていくことが求められるだろう。