北海道大学(北大)は1月28日、CO2を利用したプロパン酸化脱水素によるプロピレン製造において、活性・選択性・耐久性・CO2利用効率のすべてにおいて高い性能を発揮する新規触媒の開発に成功したと発表した。

同成果は、北大大学院 総合化学院のシン・フェロン大学院生、同・中谷勇希大学院生、同・安村駿作大学院生、北大 触媒科学研究所の清水研一教授、同・古川森也准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の触媒を扱う学術誌「Nature Catalysis」に掲載された。

プロピレン(C3H6)は、プラスチックや繊維、合成ゴム、香料、医薬品といったさまざまな化学製品の基礎原料となることから、その需要が世界的に増加傾向にある。その製造方法としては、シェールガス由来の安価なプロパン(C3H8)から、2個の水素を引き抜く脱水素反応によって直接製造することが可能だが、高い収率を得るためには600℃以上の高温条件が必要であること、ならびに現行の工業プロセスでは析出した炭素により触媒が覆われてしまい、活性点が減っていくために触媒の性能が劣化してしまうことが課題となっている。

この炭素析出を防ぐ方法としてプロパン脱水素にCO2を酸化剤として加え析出した炭素を除去する「プロパン酸化脱水素」が古くから知られている。この反応はCO2の有効利用手段としても期待されるため、カーボンニュートラルの実現に貢献可能な反応として近年注目を集めるようになってきているという。

しかし、活性や選択性耐久性などの面で実用的に有効な触媒が開発されていないため、学術的な基礎研究の範囲を出ておらず、実用に向けた新たな触媒の開発が求められていた。

こうした背景から研究チームはこれまでの研究から、プロパンの活性化には白金(Pt)、CO2の活性化にはコバルト(Co)、副反応の抑制にはインジウム(In)が適していることを確認しており、今回の研究では、これらの知見を踏まえ、Pt、Co、Inの合金が、プロパン酸化脱水素反応において高機能な触媒になるとの考察をしたほか、炭素燃焼を促進させる材料としては、同じ目的で自動車触媒にも用いられている酸化セリウム(CeO2)が適していることから、Pt-Co-In合金をナノ粒子として酸化セリウム担体上に分散担持させた触媒「Pt-Co-In/CeO2」を設計・合成し、これをCO2によるプロパン酸化脱水素に適用することにしたという。

その結果、Pt-Co-In/CeO2触媒は高い転化率選択率を少なくとも20時間は維持することが確認され、プロパン酸化脱水素反応に有効であることが実証されたという。

また、反応メカニズムの詳細な検討から、継続的に炭素を除去するためには炭素の燃焼に使われたCeO2の酸素(O)を補充するために、CO2を活性化し効率よくCOとOに分離することが重要であり、Coがそれを促進していることが判明したとする。

  • 触媒

    (左)今回開発された触媒の構造と反応の概要。(右)各構成要素の機能と役割 (出所:北大プレスリリースPDF)

今回開発された触媒は、従来触媒と比較して高い性能を示す点が特徴で、特にプロピレン生成に対する触媒活性は従来の最高値の5倍という高い値を示したとするほか、従来触媒ではCO2の活性化能が不十分なためプロパンに対し過剰量のCO2を加える必要があったが、今回の触媒ではプロパンとCO2を1:1の比率で反応させても両者が十分に反応するため、CO2の利用効率が高いことも特徴だとしている。また、今回の触媒は従来型の簡便な手法(共含侵法)で調製することが可能であり、従来触媒と同程度のコストで製造できるともしている。

  • 触媒

    (左)触媒活性と寿命の関係。(右)プロピレン収率とCO2転化率の関係 (出所:北大プレスリリースPDF)

なお研究チームでは、今回の触媒を活用することで、プロピレンの高効率製造とCO2の有効利用を兼ね備えた新しいプロパン脱水素工業プロセスの開発が期待されるとしており、実用化に向けた展開を視野に今後も研究を継続する予定としている。