auhtor=波留久泉

東北大学と米・メリーランド大学カレッジパーク校は7月2日、岩石惑星の化学組成のモデル化と、太陽系の岩石天体における密度の多様性に基づき、これらの天体における密度差は原始太陽由来の磁場によってもたらされたとする新説を発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科地学専攻のWilliam F. McDonough教授(メリーランド大学カレッジパーク校兼務)と、吉崎昂大学院生(研究当時)/日本学術振興会特別研究員らの研究チームによるもの。詳細は、地球・惑星科学を題材としたオープンアクセスジャーナル「Progress in Earth and Planetary Science」にオンライン掲載された。

水星、金星、地球、火星という、太陽系の内側にある4つの岩石惑星は、中心の金属核の周囲を酸化物であるマントルや地殻が覆う構造となっている。金属核は酸化物よりも密度が高いため、密度が高いほど金属核が占める質量比が大きいと考えられている。

また、主に火星と木星の間にある小惑星も岩石天体だが、岩石惑星のうちで最も密度の低い火星と比べてもさらに密度が低く、少量の金属しか含まないことが明らかとなっている。同じ岩石天体同士ながら、なぜこれほど密度差が生じるのか、その理由はこれまでわかっていなかった。

また、こうした岩石惑星の密度に関する研究において、中でも注目されてきたのが、水星の高い密度の起源だという。水星の平均密度は5.43g/cm3で、5.52g/cm3の地球に次いで密度が高い。しかし水星を除けば、密度は地球>金星(5.24g/cm3)>火星(3.93g/cm3)>小惑星となり、サイズが小さくなるほど密度が低くなる。しかし、水星は火星よりも小さいにも関わらず、地球と遜色のない密度となっているためである。

これまで支持されてきたのが、かつて水星はもう少し大きなサイズの天体で、激しい天体衝突によって表面の岩石層が剥ぎ取られてしまい、金属核が占める割合が高くなったとするものだ。その結果、水星の核は半径の約4分の3にも及ぶほど巨大となったと考えられている。

  • 水星

    メッセンジャーが撮影した画像を、北緯0度、東経180度を中心としてつなぎ合わせた画像。北半球(画像上側)の中央やや左よりの巨大な盆地は全長が水星の直径の1/4ほどあり、もう少しで水星がこなごなになっていた可能性があるとする天体衝突痕の「カロリス盆地」。画像は、カロリス盆地を見やすいよう若干補正されている (C)NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington (出所:NASA Webサイト)

しかし、この従来説は、NASAが2010年代初めに水星に送り込んだ探査機メッセンジャーにより、再考を迫れることになった。同探査機により、水星表面の岩石にはカリウムや塩素など、揮発性の高い元素が含まれていることが判明したためで、もし表面の岩石層が剥ぎ取られるほどの大規模な天体衝突を水星が体験したとしたら、その衝撃による高温化で揮発性の高い元素なら容易に宇宙空間へと失われてしまったはずであるためである。つまり、水星は表面を剥ぎ取られるような大衝突を体験しておらず、誕生したときから核が占める割合が高かった可能性が出てきていたとする。

  • 水星

    メッセンジャーのガンマ線スペクトロメーターで測定された水星表面のカリウム(K)とトリウム(Th)の存在量。揮発性物質のカリウムだが、トリウムはそうでないが、この存在比により、水星に加えられた熱に関する情報を得られる。水星のカリウム/トリウムの存在比は地球にとても近い (C)Courtesy AAAS/Science(出所:NASA Webサイト)

そうした中で研究チームが今回発見したのが、岩石天体を構成する物質中で金属が占める割合が、太陽から遠ざかるほど減少するという相関関係だという。太陽系最初期に存在した原始惑星系円盤の中では、原始太陽が発した強い磁場が生じていたことがわかっている。この磁場は太陽に近いほど強くなり、また空間磁場が強いほど金属が選択的に天体に取り込まれやすくなることが知られていた。これらの知見を踏まえて、研究チームが今回提案したのが、太陽系の岩石天体の密度差が原始太陽磁場によってもたらされたとする説だ。

この説であれば、水星の高い密度を表層物質の剥ぎ取り過程なしに説明することができ、水星表層に高い揮発性元素が存在していることと矛盾しない。さらに、岩石惑星に加え、小惑星の密度のバリエーションまでを包括的に説明することも可能となるという。

なお、研究チームでは、JAXAとESA(欧州宇宙機関)が現在共同で進めている水星探査計画ベピコロンボミッション(JAXAの「みお」とESAの「MPO」の2機のコンビで、2025年12月5日に水星到着の予定)や、NASAが計画している金属小惑星の探査計画Psycheミッション(金属小惑星プシケを目指し、2022年打ち上げ、2026年到着の予定)などの観測結果と、今回の研究で提案された説を組み合わせることで、今後さらに天体の金属核の形成進化過程に関する新知見が得られることが期待されるとしている。