岡山大学は5月21日、「エンスタタイト・コンドライト隕石」に含まれる鉱物「コンドリュール」および「ユレイライト隕石」のケイ素と酸素の同位体組成分析を行うことにより、地球型惑星の約50%を構成するこれらの元素における、原始太陽系円盤での進化過程を明らかにしたと発表した。

同成果は、岡山大 惑星物質研究所・The Pheasant Memorial Laboratory(PML)の田中亮吏教授、Christian Potiszil助教、中村栄三教授(現・自然生命科学研究支援センター特任教授)らの研究チームによるもの。詳細は、米天文学会の国際学術誌「The Planetary Science Journal」に掲載された。

地球を含めて太陽系は約46億年前に誕生したと考えられている。ただし、最も古い岩石として知られるのはグリーンランドで採取された約38億年前のもので、プレート・テクトニクスや火山活動などの関係から、誕生直後の46億年前のものは存在しないとされる。

急加熱と急冷却を経て形成された球状物質である「コンドリュール」を含む隕石のことを「始原的隕石」と呼ぶが、それは太陽系の形成期において、原始太陽系円盤内の塵やガスから形成された物質が集積した母天体の破片として知られる。母天体内での高温での融解作用などを受けずに、太陽系初期の始原的な情報を残していると考えられることから、まさに46億年前から届けられたタイムカプセルであり、それを分析することにより、惑星の形成過程や、惑星を構成する物質の化学組成を実証的に知ることができることが分かっている。

これまで、数多くの隕石の同位体組成分析などに関する詳細な調査が行われてきた。その結果から、水星から火星までの4つの地球型惑星は、原始太陽系円盤においておよそ木星軌道よりも内側で形成された、非炭素質型物質を主な材料として形成されたと考えられている。

  • 地球

    原始太陽系円盤のおおよそ木星軌道よりも内側における、微惑星形成モデル。(上)核合成起源同位体二分性に基づく、原始太陽系円盤モデル (Kruijer et al., 2017, PNAS, 114, 6712-6716から改変されたもの)。これまでの研究から、太陽系が形成してから約100万年後までには、原始木星よりも内側の領域(地球型惑星が形成された領域)には、非炭素質型物質が卓越していたと考えられている。(下)今回の研究では、この領域における微惑星形成過程において、急加熱された、溶融したカンラン石に富むコンドリュール、蒸発した塵、および初生ガスが反応することにより、よりケイ素に富むコンドリュールが形成され、これらの集積により、地球型惑星の起源となった微惑星が形成されたとのモデルが提案された (出所:岡山大プレスリリースPDF)

中でも、マグネシウムに富む輝石であるエンスタタイトを主要な鉱物とする非炭素質型始原的隕石のエンスタタイト・コンドライトは、酸素同位体組成や多くの元素の「核合成起源同位体異常値」が、地球や月のそれらと一致するため、地球と月を形成した主要な材料物質と考えられてきた。

多くの隕石に含まれるカルシウム、チタン、クロム、ニッケルなどの安定同位体のうち、特に中性子が最も多い核種(48Ca、50Ti、54Cr、62Ni)は、地球と隕石では異なった比率で含まれることが明らかになっており、それを核合成起源同位体異常という(隕石によって異なっているその値が核合成起源同位体異常値)。

また非炭素質型隕石の中には、主にケイ酸塩からなり、コンドリュールを含まない「ユレイライト隕石」と呼ばれる種類がある。ユレイライト隕石(の母天体)は原始太陽系円盤のおおよそ木星軌道よりも内側において、太陽系が誕生して約10万年後という最も早い時期に、すでに集積していたと考えられている。

地球型惑星の形成モデルはさまざまなものが提唱され、その中には、そのユレイライト隕石母天体をはじめとする非炭素質型隕石の中でも核合成起源同位体異常値が小さい組成を持った微惑星に、さまざまな割合で炭素質コンドライト隕石母天体が混合した結果として形成されたというものも提案されてきた。

しかし、これらのモデルについては矛盾点が指摘されている。地球の主成分であるケイ素の同位体組成(δ30Si値)が、エンスタタイト・コンドライト、ユレイライト、炭素質コンドライトのいずれよりも高いことがまず1つ。ユレイライトや炭素質コンドライトの酸素同位体組成(Δ17O値)が、地球のそれより小さいことも矛盾点の1つである。

さらに、地球のケイ素の大部分は岩石層(マントルと地殻)に含まれているが、地球の岩石層に存在するケイ素の存在比(例えば、ケイ素/マグネシウム)が、太陽系全体の存在比よりも低いことも説明できていない。

そこで、それらの理由を説明するためのモデルが考え出された。たとえば、微惑星や原始惑星の衝突時にケイ素が蒸発したとする説だ。また、地球の金属核とマントルが分離する際に大量のケイ素が金属核に取り込まれたことにより、地球の岩石相のケイ素同位体組成(δ30Si値)が高くなり、ケイ素/マグネシウム比が低下した説なども考案されてきた。しかし、いずれも決め手になっておらず、新たな研究が求められていたという。

地球型惑星や小惑星は岩石や金属によって構成されており、その成分のうちのおよそ半分は、酸素とケイ素からなる。このことから、地球や隕石に含まれる酸素とケイ素の物質進化過程を解明することは、地球型惑星の形成と化学組成を推定する上で重要な手がかりとなるという。

そこで研究チームは今回、太陽系形成初期に原始太陽系円盤のおよそ木星軌道よりも内側において形成された、地球の起源物質を代表する始原的隕石であるエンスタタイト・コンドライトから分離したコンドリュールと、非炭素質型惑星物質の同位体組成端成分であるユレイライト隕石について、酸素とケイ素の同位体組成を分析し、その関係性を調査することにしたという。

分析の結果、ユレイライト隕石は幅広い酸素同位体組成を有する一方で、ケイ素同位体は均質であることが明らかとなった。これは、ユレイライト隕石母天体が集積した太陽系の形成が始まって10万年後の時点で、原始太陽系円盤の内側では酸素同位体の不均質性が存在したのに対して、すでにケイ素同位体については均質化が達成されていたことを示しているという。

それに対してエンスタタイト・コンドライト中のコンドリュールは、地球、月、火星、および非炭素質型小惑星起源隕石と調和的な、幅広いケイ素同位体組成を示し、さらには酸素同位体組成と緩やかな負の相関性を持つことが確認されたとする。

  • 地球

    エンスタタイト・コンドライト隕石に含まれるコンドリュールのケイ素同位体比と酸素同位体比の関係(赤丸)。Δ17O(‰)は、地球岩石との酸素-17/酸素-16のずれを、δ30Si(‰)は、標準試料のケイ素-30/ケイ素-28とのずれがそれぞれ千分率で表されたもの。黄色で囲われた領域は、地球のマントルと月、火星由来隕石、小惑星ベスタ由来隕石(HED隕石)、アングライト隕石、ブラチナイト隕石、オーブライト隕石の酸素およびケイ素同位体組成が示されている。灰色で囲われた領域は、エンスタタイト・コンドライト隕石の組成範囲。青破線は、計算によって求められた、原始太陽系円盤内で、それぞれのコンドリュールが形成された環境における、塵-ガスの混合物のマグネシウム/ケイ素モル比 (出所:岡山大プレスリリースPDF)

このケイ素と酸素同位体の関係性について研究チームでは、「原始太陽系円盤から想起に形成した鉄とニッケルを主成分とする金属、およびマグネシウムとケイ素を主成分とするケイ酸塩鉱物によって構成される塵が、瞬間的な加熱によって蒸発。その蒸発によって生じたガスと、溶融したケイ酸塩メルトとの反応によって形成された」と結論づけたとしている。

この反応が生じた際の塵とガス全体のマグネシウム/ケイ素比と酸素・ケイ素同位体組成は、太陽系が誕生した星雲内での塵/ガス比や、塵に含まれる金属/ケイ酸塩鉱物比によって決定づけられ、惑星起源物質や微惑星の化学組成は、原子惑星系円盤内部においてこれらの反応が生じた場の組成を反映しているものと考えられるという。つまり、始原的隕石の組成が、必ずしも惑星の化学組成をそのまま反映しているものではないと考えられるとしている。

地球型惑星の化学組成は、これまで太陽系初期に形成された、始原的な微惑星のかけらとされるコンドライト隕石の組成を基にして推定されてきた。とりわけ、地球の岩石と最も似通った同位体組成を持つエンスタタイト・コンドライトは、地球の起源物質の大部分を占めるものであると考えられている。しかしエンスタタイト・コンドライト起源モデルに基づくと、地球の核には20~30%のケイ素が含まれることになり、これは非現実的な値であるとされてきた。

その一方で、炭素、窒素、水などの生命に必要な元素の多くを含む、炭素質コンドライトを起源物質とした場合、地球のほかの元素の同位体組成を説明することができなかった。

今回の研究成果から、地球型惑星の化学組成が、円盤内の起源物質形成場における塵およびガスの成分が反映されており、始原的隕石の組成が必ずしも惑星の化学組成をそのまま反映しているものではないことが示された形だ。このことは、地球型惑星の化学組成の再検討が必要であることを示唆しているとしている。