韓国政府通商産業資源部(日本の経済産業省に相当する中央官庁)は、2021年5月13日に文大統領が宣言した総合半導体強国をめざす「K-半導体戦略」のフォローアップとして、政府が各省庁の垣根を越えて主導する5大テーマに関する具体的な半導体強化実行計画を発表した。

これ以外のテーマ(半導体メモリおよびファウンドリ工場や研究開発への巨額投資など)は、Samsung Electronicsをはじめとする韓国の半導体企業が自主的に実行することになっている。また、大学学部レベルのシステム半導体教育充実や契約学科制度(入学時に就職先を保証し学費などの援助を行い、企業が人材をいわば青田買いする制度)などすでに実施されている項目は含まれていない。

政府支援の10年計画5大テーマとは、以下の通り。

  1. センサ技術開発とセンサプラットフォーム構築(2022~2028年)
  2. PIM(Processing-In-Memory)人工知能半導体技術の開発(2022〜2028年)
  3. 素材・部品・装備評価用の量産型テストベッド構築(2023~2032年)
  4. 先端パッケージングプラットフォームの構築(2023〜2029年)
  5. 民・官共同投資による大規模な人材の養成(2023~2032年)

センサ技術開発とセンサプラットフォーム構築

韓国政府は、2022年から主力産業のデータ収集と処理に必要な高度なセンサの開発と産業エコシステムの構築に乗り出す。このため、通商産業資源部は、センサの研究開発(R&D)をサポートし、地方自治団体はセンサの製造技術革新のプラットフォームと実証インフラを構築するという。

具体的には以下のテーマに取り組む予定としている。

  • 市場競争型センサ開発:早期市場参入のための要求連携型短期商用化センサ技術の開発
  • 未来先導型センサ開発:新市場対応のための要求ベースの未来核心センサ技術の開発
  • センサプラットフォーム構築:将来の発展の方向を考慮した需要中心センサ共通基盤と活用技術の開発
  • センサの製造技術革新のプラットフォーム構築:センサ産業試作基盤の構築と試験評価サポート
  • 次世代センサ実証インフラ:センサの適用製品の実証センターの構築と製品化をサポート

PIM人工知能半導体技術の開発

また、韓国政府産業部と科学技術通信部は、メモリとプロセッサを統合したPIM人工知能半導体技術を開発するためのサポートも2022年から行うことも明らかにした。 具体的には以下のテーマに取り組む。

  • PIM構造を開発:プロセッサ・ロジックとメモリ(DRAM、SRAM、MRAM、PRAM、ReRAMなど)を融合したPIM半導体開発
  • 次世代メモリ設計・プロセスの開発:PIM構造を反映するためのメモリ半導体セルと周辺回路設計と実用化の検証およびPIM用の次世代メモリのプロセス・装置の技術開発
  • PIM融合新素子の開発:シリコン・プロセスベースのPIM特化素子・アーキテクチャおよび新材料ベースのPIM新素子と素子集積プロセスの開発

素材・部品・装備評価用の量産型テストベッド構築

K-半導体ベルト(ソウル近郊の龍仁を中心としたKの形をした半導体関連企業密集地帯)構築のための素材・部品・装置量産型テストベッド、ならびに先端パッケージングプラットフォームなどのインフラ造成事業と半導体成長基盤の中核である大規模な人材養成事業は、付加的な事業企画とし、2023年から推進することを掲げている。

このテストヘッドはSK Hynixが主導して建設予定の龍仁半導体クラスター内に設置する予定としている。

先端パッケージングプラットフォームの構築

半導体の高性能化、多機能化、小型化を可能にする先進的な半導体パッケージングのために、試作、評価‧認証などを1ストップ支援するインフラも構築する。ここでは、90種類以上の機器を備え、企業の試作と検証、研究開発課題の実行などをサポートするとしている。

民・官共同投資による大規模な人材の養成

半導体産業の生態系活性化の中核的な人材を養成するために、官と民が共同投資する大規模な人材養成事業を推進する計画。この事業は、企業や政府が同等持分で共同投資して、企業の技術ニーズをもとに、大学‧研究所が研究開発を行い、この過程で修士・博士級の人材が実務能力を確保することができるようにすることが計画されている。

なお、日本でも半導体産業の復権に向けた政策が経済産業省から発表されているが、韓国の政策は、米国同様に、税制優遇や人材育成など多くの省庁にまたがる総合政策であるため大統領自らが発表しているものとなっており、かつ2030年に向けた長期計画でもあるといえる。