東京大学(東大)と科学技術振興機構(JST)は6月1日、富士通セミコンダクターメモリソリューションとの共同研究により、0.7~1.2Vという低い動作電圧、10年のデータ保持時間と100兆回の書き換えが可能な長寿命の強誘電体メモリを開発することに成功したと発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の田原建人大学院生、同・トープラサートポン・カシディット講師、同・竹中充教授、同・高木信一教授らと、富士通セミコンダクターメモリソリューションの共同研究チームによるもの。詳細は6月1日付で国際会議「Symposia on VLSI Technology and Circuits」で発行される「Technical Digest」に掲載されるという。

電源が切れてもデータが消えない不揮発性メモリはNAND型フラッシュメモリが良く知られているが、次世代メモリとしてさまざまな種類が開発されている。その中の1つである「強誘電体メモリ」は、低消費電力かつ高速動作が可能という点で注目されており、すでにPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やSBT(タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム)といった強誘電体材料を採用したものが実用化され、日本国内でも交通系ICカードのほか、産業ロボット、車載、モーター、メーターなどのメモリとして幅広く活用されている。

しかし、PZTやSBTなどの強誘電体メモリは50nm以下の厚みで動作させることが技術的に困難とされており、現在の先端半導体プロセスに適用することが難しく、製造ラインが特殊化することが課題とされている。ただし、酸化ハフニウム系強誘電体材料は、10nm前後まで薄膜化が可能とされ、かつ先端プロセスでもHigh-k絶縁体として用いられることもあり、一般的な半導体プロセスとの親和性に優れた強誘電体材料として期待されている。

期待される酸化ハフニウム系強誘電体だが、分極を反転させるために必要な電界(抗電界)が高く、データを書き換える電圧が高くなってしまうという課題があること、ならびに耐電圧の観点で、膜の絶縁破壊耐性に問題があり、データの書き換え回数を多くできないという信頼性の問題などがあったという。

そこで研究チームは今回、強誘電特性を損なうことなく酸化ハフニウム系強誘電体を極薄膜化する技術を確立。それにより、従来課題を克服した強誘電体メモリの実証に成功したとする。

さらに、強誘電体メモリを半導体製造における配線工程(BEOL)に組み込んで集積化できるようにすることを目指し、配線工程で許容可能な温度以下で作製可能なHZO(酸化ハフニウムと酸化ジルコニウムの混晶)強誘電体の研究開発を進めたところ、配線工程の許容温度以下の中でもHZO強誘電体の厚みを4nmまで薄くしても、20μC/cm2以上の分極反転量という、優れた強誘電体メモリ特性が実現できる技術の開発に成功したという。

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    (左)4nmまで薄膜化したHZO(酸化ハフニウムと酸化ジルコニウムの混晶)強誘電体の断面透過電子顕微鏡像。(中央)1.2V動作のヒステリシス特性。(右)0.7V動作のヒステリシス特性。0.7Vまで書き換え電圧を低くしても強誘電体のヒステリシス特性が確認された。なおヒステリシス特性とは、電圧をゼロに戻しても分極が残留し、さらに電圧の履歴によって残留する分極の向き(正/負)が変わる強誘電体特有の特性のことである (出所:共同プレスリリースPDF)

強誘電体メモリの書き換え電圧は膜厚に比例することから、薄膜化するほど電圧を低下することが可能なため、結果として、0.7~1.2Vほどの低い動作電圧で、データの書き換えが可能な強誘電体メモリが実現されることとなり、これにより最先端プロセスを活用して大規模集積メモリや論理集積回路との混載メモリとして活用することが期待できるようになったと研究チームでは説明している。

さらに、この薄膜化および動作電圧化により、メモリの信頼性として重要であるデータ書き換え回数(エンデュランス)とデータ保持時間(リテンション)も改善されることを確認。特に低電圧化により、酸化ハフニウム系強誘電体の大きな課題であった絶縁破壊耐性が改善されたとのことで、4nm厚みのHZO強誘電体においては、実用化されている強誘電体メモリと同等の書き換え回数である100兆回まで書き換えても、絶縁破壊が起こらないことが示されたという。

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    作製されたHZO薄膜強誘電体メモリのデータ書き換え特性(エンデュランス特性)。現実的な測定時間の制限があるために1010回(100億回)までしか示されていないが、動作周波数と動作電圧から見積もられたところ、少なくとも1014回(100兆回)程度まで安定に動作できると見込まれている (出所:共同プレスリリースPDF)

また、薄膜化により低い電圧でも分極状態を制御する電界を十分に確保でき、“0”あるいは“1”の異なる状態をしっかりと書き込むことができるため、データを書き込んだあとはそのまま電力を供給しなくても、85℃の環境で、10年以上の情報記憶が可能であることも実証されたという。

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    今回のHZO薄膜強誘電体メモリのデータ保持特性(リテンション特性)。85℃の環境で10年後もデータを保持できると見込まれている (出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームでは、今回の研究において、HZO強誘電体の極薄膜化と低電圧化の道が拓かれたことから、今回の強誘電体メモリ応用のみならず、記憶機能と論理演算機能の両方が備わった「強誘電体トランジスタ」や、力と電圧を変換できる圧電素子などへの応用も期待できるとしているほか、材料科学の観点から、極薄膜の強誘電体に特有な物理現象を解明することで、これまでになかった科学的知見や新たな応用への展開も期待できるとしている。