京都大学(京大)と武蔵野大学は、修正齢6・12・18ヶ月の早期産児と満期産児を対象に、社会性発達を評価する課題を縦断的に行い、発達予後を追跡調査した結果、修正齢6・12・18ヶ月にかけて早期産児は満期産児に比べて人への注意が弱く、また人の視線を追う頻度も少ないことがわかったと発表した。

  • 社会性・語発達リスク

    今回の研究のイメージ (出所:京大プレスリリースPDF)

さらに、人への注意が弱い乳児ほど自閉症の早期スクリーニングで陽性と判別されやすいこと、他者の視線を追う頻度が少ない乳児ほど語彙の獲得が遅いことなどの新たな事実が見出されたことも同時に発表された。

同成果は、京大大学院 教育学研究科の明和政子教授、武蔵野大学教育学部の今福理博准教授、京大大学院 医学研究科の河井昌彦病院教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際科学誌「Infancy」にオンライン掲載される予定だ。

日本をはじめ、世界の国々において、早期産(在胎週数22週から37週未満)・低出生体重(出生体重2500g未満)での出生率が増加しているという。しかも日本の場合、総出生数が減少を続けているにもかかわらず、早産児・低出生体重児の割合は増加の一途をたどっているという。

また、最近行われた欧米の大規模コホート(長期縦断)調査によれば、早産児・低出生体重児は、就学期までに自閉スペクトラム症(自閉症)などの発達障害と診断されるリスクが、満期産児と比べて2~4倍ほど高いことが示されたという。

これまで研究チームは、早産児の社会性発達のリスクをより早期に評価する試みとして、人などの社会的に重要な刺激に対する注意(社会的注意)の個人差に着目した研究を行ってきた。その結果、修正齢6・12ヶ月の時点では、一部の早産児の社会的注意が満期産児と比べて弱いことなどがわかってきている。

社会的注意の弱さは他者とコミュニケーションする機会の減少をもたらし、結果的に、社会性・言語発達のリスクにつながると考えられるという。しかし、発達早期に見られる社会的注意の「個人差」が、早産児の社会性・言語発達のリスクとどのように関連するのか、また、それはどの程度早期から見られるかについては解明されていなかった。

今回の研究は、在胎24~37週未満の早産児49名と満期産児29名を対象として行われた。まず、生後6・12・18ヶ月の3つの時点(早産児・満期産児ともに修正齢)において、「人と幾何学図形の動きを左右に配置した動画」と「人が物体に視線を向ける動画」を見せた時の視線の動きが視線自動計測装置(アイトラッカー)によって計測された。

  • 社会性・語発達リスク

    社会的注意の評価に用いた動画のワンシーン。(左)人と幾何学図形の動きを左右に配置した動画。(右)人が物体に視線を向ける動画 (出所:京大プレスリリースPDF)

人と幾何学図形の動きの映像については、「人の映像を見た時間の割合」が算出されたほか、「人が物体に視線を向ける映像」については、「視線を追う頻度」と「視線方向の物体を見た時間の割合」が算出された。さらに、生後18ヶ月に達した時点で、「乳幼児期自閉症チェックリスト(M-CHAT:Modified Checklist for Autism in Toddlers)」を用いた社会性発達のリスクが評価されたほか、言語発達の評価も行われ、社会的注意の個人差との関連が調査された。

その結果、以下の3点が新たに明らかになったという。

  1. 修正齢6・12・18ヶ月の時点では、早産児は満期産児に比べて人に注意を向ける時間が一貫して少なく、人の視線を追う頻度も少なかった
  2. 修正齢18ヶ月の時点では、早産児は満期産児に比べて自閉症リスクが陽性と判別される割合が高く、理解・発話の語彙数も少なかった
  3. 修正齢18ヶ月の時点では、人に注意を向ける時間が少ない児ほど、自閉症リスクが陽性と判別され、また人の視線を追う頻度が低いほど発話できる語彙数が少なかった
  • 社会性・語発達リスク

    早産児と満期産児における人を見た時間の割合(左)と人の視線を追う頻度(右)。円形(水色)は早産児のデータ、三角形(赤色)は満期産児のデータが示されている (出所:京大プレスリリースPDF)

  • 社会性・語発達リスク

    社会的注意の個人差と社会性・語発達リスクとの関連。図中のβは標準偏回帰係数が示されている (出所:京大プレスリリースPDF)

以上の結果について研究チームでは、周産期の環境経験の違いが、乳児期の社会的注意の発達に影響を与えること、そしてその個人差は社会性発達のリスク(自閉症、言語発達の遅れ)を予測する可能性を示したものとする。

人を見る時間が少ないほど早期自閉症スクリーニングで陽性と判別される割合が高い、人の視線を追う頻度が低いほど発話語彙数が少ないといった関係を実証的に明らかにしたのは、今回の研究が初めてだという。社会的注意は、早産児をはじめとするリスク児の発達評価や早期介入支援の効果を評価する客観的指標として、臨床現場での応用が期待されると研究チームでは説明する。

なお、今後の課題としては、今回の研究が見出した早産児の社会性発達リスクを予測しうるマーカーのメカニズムを、より詳細に解明することにあるとする。また、発達早期に特定されたリスクが、学齢期以降の自閉症の診断(罹患率)や社会性発達、実生活での対人関係の問題などと、どのように関連するのかを長期的に追跡調査することも重要な課題となっているとしている。