日立製作所は2月8日、神経発達症である注意欠如・多動症(ADHD)患者が自閉スペクトラム症(ASD)を併発しているかどうかの早期診断を支援するための基礎技術を開発したことを発表した。
同成果は、同社ならびに自治医科大学、国際医療福祉大学、中央大学らで構成される研究グループによるもの。今回の研究成果の一部は、2019年2月8日付けで米国の脳科学専門誌「Frontier in Human Neuroscience」に掲載された。
近年、ADHDとASDの両方の特徴を持つ患者が少なくないことが報告されるようになり、両症状の併発の有無に併せて診断を行うことが必要になってきたという。しかし、併発の有無を見極めるためには、数ヶ月間の経過観察が必要であり、治療法や療育法の決定に時間がかかるなどの課題があった。
これまで研究グループは、治療薬の服薬経験がないADHD患者の治療薬服用前後の脳活動パターンを用いて、ASD併発の有無による病態の違いを可視化できることを報告しており、今回の研究では、その知見を元に、ADHD患者がASDを併発しているかを自動的に解析するアルゴリズムを開発したという。
具体的には、薬剤の服用後に、脳反応の光トポグラフィ信号を計測。その計測信号と、数ヵ月後の診断結果を元に機械学習を行ったところ、脳の注意関連領域(中前頭回-角回)と運動関連領域(中心前回)の活動量を用いることがASD併発の有無を見分けるために、最適であることが判明したという。また、これらの関連領域の活動量を2次元的にプロットし、それぞれROC曲線によって決められた適切なしきい値を設けることで、正確に分類できることも判明したという。
このアルゴリズムと、すでに発表済みのノイズ除去アルゴリズムを統合することで、自動解析アルゴリズムを開発。効果確認のために、クロスバリデーション手法を用いて、数ヶ月後の診断結果に対する予測正確度を検証したところ約82%という結果が得られ、診断支援技術として実用の範囲にあることが確認されたという。これにより、これまで数ヶ月かかっていた診断が、2時間ほどで行えるようになる可能性が示されたと研究グループでは説明している。
なお、研究グループでは今後、臨床研究を通じて同技術開発を継続して行っていくことで、神経発達症患者に対して健やかな発達を支援できる社会の実現を目指すとしている。