Infineon Technologies(インフィニオン・テクノロジー)は、高性能センサポートフォリオの1つとして、機械に目の役割を提供する60GHzレーダーの本格展開を進めようとしている。

レーダー、つまり電波を用いるため、物体の向こう側にあるものを測定することが可能なほか、光や熱による影響も受けることはない。また、60GHz帯は7GHzの帯域幅を利用できるため、距離分解能2.14cm(理論値)という高い分解能を実現できる。さらに、電波利用における用途制限が、近い周波数帯域の77GHz、79GHzのように限られておらず、屋内や自動車など幅広い分野での活用に向いているという特徴がある。同社でも、これまでにも自動車の車室内での活用提案を行ってきたが、新たに民生分野や産業機器分野での活用提案を開始したという。

同社が60GHzレーダーの展開を活発化させる背景として、もう1つ、各国の電波法での対応が進んできたことが挙げられる。すでにFCC、ETSI、CCSA、NRRAなど各国での法整備が進んでおり、日本でも2020年1月より57-64GHzに対応した電波法が施工され、電波産業会(ARIB)による技術標準化作業も進められ、2020年中にリリースされる見込みだという。

車内の様子を把握

これまで同社が提案してきた自動車での活用方法が車室内のセンシング用途である。例えば3列シートのどの席にどういった人が座っているかを把握することができるほか、物体を透過できるため、イメージセンサでは見えない座席の裏の下まで見通すことができるという特徴がある。また、高分解能による微細な振動の把握、つまり人の呼吸なのか、単なるモノが走行の振動の影響を受けているのか、といったことを見分けることもできることから、欧州の自動車安全テスト「Euro NCAP」が2022年に試験項目として追加する「Child Presence Detection(幼児置き去り検知)」にも対応できるようになるとしている。

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    車室内センシングを実現する必要性 (資料提供:Infineon、以下すべて)

ちなみに車室内向けAEC-Q100 Grade2対応トランシーバIC「BGT60Axx」は2021年中に製品化される予定で開発が進められているという。

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    車載向け60GHzトランシーバIC製品の状況

すでにスマホには採用済み

自動車用途以外で同社が期待を寄せるのがモバイル機器への搭載である。新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大にともなう対処策として、なるべく不要なモノに触らない、という意識が浸透してきており、スマートフォンなどでもジェスチャー制御や、自動的に所有者が近くに来たことを検知し、スタンバイからの復帰をするといった機能が求められるようになってきているとのことで、すでに実際に60GHzレーダーICを搭載したスマホとしてGoogleのPixel 4などが販売されており、今後の採用拡大が期待されるという。

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    モバイルデバイスにおける60GHzレーダーの活用例

こうした非接触に関連する機能はスマートホームでも求められるものと同社では見ている。例えば高分解能による介護者のバイタルセンシング、ジェスチャーによる照明やエアコンのコントロール、タッチレスでの各種スイッチのオン/オフといった活用などが想定されるとしている。

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  • スマートホーム、スマート家電における活用例

ビジネス分野でも同様で、ロボットへの適用や入退出管理などでの活用が期待できるとしている。

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    スマートオフィスやスマートファクトリでの活用例

幅広い用途に応じるために、製品ラインナップの拡充も進めているという。現在、送信1ch/受信3chのアンテナ内蔵製品「BGT60TR13C」の提供はすでに行っているが、2020年末までに受信1ch/送信1chのアンテナ内蔵でマイコン不要で利用可能な赤外線人感センサ置き換え向け製品の提供を予定しているという。また、2021年中ごろには、車室内センシング向け製品として、送信2ch、受信4ch品の提供も予定しているとする。さらに、2021年にはBGT60TR13Cと制御マイコンを搭載し、電波認証も取得したモジュールを提供することも予定しており、これにより、さらに幅広い分野での活用を促進していきたいとしている。

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    インフィニオンの60GHzレーダー製品のロードマップ

なお、同社では60GHzレーダー製品を単に提供するだけではなく、周辺を含め技術革新を図っていくことで、新たなアプリケーションの創出を目指していきたいとしている。