2020年の半導体市場に対する各調査会社の予測は、年初から8月末の現在まで目まぐるしく変化している。2019年末あるいは2020年初頭時点における主要市場調査会社および世界半導体市場統計(WSTS)の予測は、すべて「プラス成長する」としていた。2017~2018年に起こったメモリバブルがはじけた2019年に、前年比2桁%のマイナス成長となったこともあり、2020年はそのリバウンドを前提とした「プラス成長」としていたわけである。

  • Semiconductor Intelligence

    2020年および2021年の半導体市場成長率予測(2019年12月~2020年2月時点) (出所:Semiconductor Intelligence、以下すべて)

しかし、突然ともいえる新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が始まると、各社・機関の予測はいずれも、4~5月の時点で前年比マイナス成長へと下方修正した。調査会社の1社である米COWAN LRA Modelの予測は、歴史的な傾向に基づくモデルのため、新型コロナウイルスの影響をまったく考慮していないことから無視するとしても、同時点でプラス成長を予測していたのはOmdia(旧IHS Markit)だけである。そのOmdiaも1月時点の「前年比6%増」という予測からは3.5ポイント下方修正している。Omdiaはメモリが市場の成長を支えると信じており、例外的な「プラス成長」に固執していた。

  • Semiconductor Intelligence

    2020年および2021年の半導体市場成長率予測(2020年4月~5月時点) (出所:Semiconductor Intelligence)

第2四半期のコロナ特需で各社プラス修正に一転

その後、6月~8月にかけての各社予測は、いずれも再び「プラス成長」へと上方修正が行われている。その背景には、新型コロナによる在宅勤務の増加や遠隔授業の実施などに起因するPCやデータセンターサーバに対する需要が急騰し、それに併せた第2四半期の半導体各社の業績が意外に好調であったことがある。具体的な数値としては、世界の主要半導体メーカー12社の平均前四半期比成長率は3.9%増、メモリメーカーのみを見れば同12.7%増と高成長を達成している。

新型コロナの影響で社会活動が停滞し、半導体の売り上げも減少するとみていた市場調査会社各社は、この予想外の特需を見て、2020年の半導体市場をプラス成長へと上方修正したわけである。図3には記載されていないOmdiaについても、8月時点で半導体全体では同5%成長と予測していると、同社シニアコンサルティングディレクタの南川明氏が、8月28日開催のセミコンポータルのオンラインライブ講演で明らかにしている。半導体メモリに限れば同20%増のプラス成長としており、2020年はメモリが半導体産業をけん引するという従来からの予測に変更はないとした。同氏は「今年、一貫して『プラス成長』を言い続けているにはOmdiaだけだ」とも述べている。

半導体調査会社各社の楽観的なプラス成長の予測に警鐘を鳴らしていた半導体市場調査分析・コンサルティング会社である米Semiconductor Intelligenceでさえ5月時点の前年比6%減を8月には同1%増へと上方修正している。同社は、8月の時点で、2020年の半導体産業は「以前恐れていたほどには悪くはない(not as bad as feared)」とした。しかし同社は、世界的な経済後退や、スマートフォンやPCなど最終製品の売り上げのマイナス成長予測などを考慮し、2020年の半導体市場の大幅な成長を期待するのは難しいと考え、 「同1%増」の成長に留めたと説明している。

  • Semiconductor Intelligence

    2020年および2021年の半導体市場成長率予測(2020年6月~8月時点) (出所:Semiconductor Intelligence)

2020年下半期はどうなるのか?

主要半導体メーカー各社の第3四半期ガイダンスを見ると、各社それなりに良いように見えるが、NVIDIAやInfineon Technologiesの売上高予測には、買収企業の売り上げも含まれることに注意が必要である。ただし、これらの先進ロジックファブレスの多くはTSMCの7/5nmプロセスを活用しており、TSMCの業績向上が市場全体を支えることは期待される。

しかし、気がかりなのは、Samsung、SK Hynix、キオクシアといったメモリメーカーが先行きの不透明さからガイダンスを発表していない点である。Micron Technologyは、プラス成長予測を発表しているが、「スマートフォンやゲーム機の成長に期待している」としている。

  • Semiconductor Intelligence

    主要半導体企業12社の2020年第2四半期売上高に対する前四半期比増減率と第3四半期のガイドライン (出所:Semiconductor Intelligence)

Omdiaが期待するメモリ市場だが、メモリ市場の動向調査に強みを持つTrendForceによると、サーバやPCの特需が一巡してしまった上に、スマートフォンや自動車の売れ行きがそれほど回復していないため、メモリクライアント各社が第2四半期に在庫を積み増した結果、第3四半期のDRAMならびにNAND市場は供給過剰気味となり、加えて、DRAMサプライヤ各社の設備投資も抑えられた状態となっており、平均販売価格も下落に転じていることから、市場規模もDRAMが前四半期比でマイナス成長、NANDも同横ばい程度との予測を示している。

もしも、半導体業界の売り上げ規模1位のIntel、2位のSamsung、3位のSK Hynixの第3四半期売上高がいずれも前四半期比でマイナス成長になるようなことになれば、この3社だけで市場シェア3割超えであるため、そのインパクトは大きいものと考えられる。

第3四半期以降の半導体業界は、少なくとも最大市場であるメモリ市場の動向については、好況だった第2四半期の延長でそのまま推移するとみることはできない状況が徐々に見えてきたと言え、今後のメモリ価格や需要動向を注視していく必要があると思われる。

また、2021年の市場についてだが、現時点では各市場調査会社ともに「大幅プラス成長」を予測しているが、これらの予測はいずれも新型コロナウイルスの影響が抑えられていることを前提にしている。2020年後半には、5Gに対応するであろう次世代iPhoneや新型ゲームコンソールの発売などのプラス材料があり、市場に対する寄与も期待される。しかし、新型コロナの収束については、誰にも読むことができず、その点については、今後も不透明かつ不確実な状況が続き、その動向次第で左右されることになりそうである。

参考文献

SC-IQ: Semiconductor Intelligence | Semiconductor recovery in 2020?
SC-IQ: Semiconductor Intelligence | Is the worst over for semiconductors?
SC-IQ: Semiconductor Intelligence | Semiconductors in 2020 – not as bad as feared