次世代宇宙船「フィディラーツィヤ」

初飛行から半世紀以上にわたり、改良を重ねながら運用され続けてきたソユーズ宇宙船だが、いま、それを代替する新型宇宙船「フィディラーツィヤ(Federatsiya)」の開発も進んでいる。

フィディラーツィヤは、姿かたちがソユーズから大きく変わり、円錐台形状の帰還カプセルと機械モジュールから構成され、一見すると米国の「アポロ」や「オライオン」にも似ている。さらにサイズも大きく変わり、ソユーズは最大3人乗りだが、フィディラーツィヤは最大6人が乗り込むことができる。

また、月や火星へ飛行できる能力をもつとされ、月へは最大4人を飛ばせるとしている。ロスコスモスは、NASAが主導する月周回有人拠点「ゲートウェイ」計画にも参画しており、またロスコスモス独自としても月、そして火星の有人飛行に向けた研究・開発を行うとしており、フィディラーツィヤはこうした計画に沿った性能をもつ。

さらに、帰還カプセルのうち、耐熱シールドなどを除く大部分は再使用ができ、運用コストの低減が図られる。

現時点で、2023年に無人での試験飛行を、2024年にISSへの無人の試験飛行、そして2025年に初の有人飛行を行うことが計画されている。

ちなみに、フィディラーツィヤという名前は「連邦」を意味する。また、この名前は計画名、また宇宙船そのものの名前であり、最初に生産される1号機には「アリョール(Orel)」というは名前が付けられるという。アリョールとは「鷲」という意味で、初代ロシア皇帝であるピョートル大帝が創設したロシア海軍の最初の軍艦のうちの一隻の名前であり、またロシア宇宙開発の父であるセルゲイ・コロリョフが、宇宙飛行士たちのことを親しみを込めてアリョールと呼んでいたことにも由来するという。

  • ソユーズ

    フィディラーツィヤの想像図 (C) Roskosmos

次世代ロケット「イルティーシュ」

そして、ソユーズ・ロケットもまた、後継機となる「イルティーシュ(Irtysh)」の開発が進んでいる。イルティーシュとは中国からロシアにかけて流れる長大な川の名前から取られている。

イルティーシュはかつて「ソユーズ5」、「フェーニクス」などと呼ばれていたロケットで、地球低軌道に約18t、静止トランスファー軌道に約5tの打ち上げ能力をもつ。

ロケットの構成や性能などは、ウクライナが生産していた大型ロケット「ゼニート」に非常によく似ている。ゼニートのエンジンなどはロシア製だったものの、機体全体の生産はウクライナの企業が行っていたため、ウクライナ危機後、ロシアが自由に調達や運用することができなくなった。そこで、このゼニートをロシアの技術で造り直したようなつくりをしている。

たとえばロケットの直径や全長は、ゼニートより少し大きくなってはいるものの、それほど大きな違いはない。また1段目には、ゼニートで使われていたRD-171の改良型である「RD-171MV」を使う。

いちばん大きな違いは2段目エンジンで、ゼニートではウクライナ製だったものの、イルティーシュでは新たに、ロシア製の「RD-0124M」というエンジンを装備する。ちなみにその原型のRD-0124は、現行のソユーズ2.1bでも使われているエンジンでもある。

イルティーシュはすでに設計が終わり、現在は試験用の部品などの製造が進んでいると伝えられている。初打ち上げは2022年の予定で、バイコヌール宇宙基地にあるゼニート用の発射台を改修したうえで使う。将来的には、極東のアムール州に建設されたヴォストーチュヌィ宇宙基地からも打ち上げられるとしている。

イルティーシュの運用が始まれば、ソユーズ2のほか、前述の経緯で運用できなくなったゼニートや、旧式化しつつあるプロトンMなどを代替し、さまざまな衛星の打ち上げに使われるという。また、商業打ち上げも視野に入れているほか、そしてフィディラーツィヤを打ち上げるための有人ロケットとしても使われる予定である。

  • ソユーズ

    イルティーシュ・ロケットの想像図 (C) RKK Energiya

迷走に終止符は打てるか

ソユーズと名の付くロケットや宇宙船の後継機の開発が進む一方で、これまでの同様の取り組みは、死屍累々の歴史を歩んできた。

ロケットも宇宙船も、ソ連時代から次世代機の計画が立ち上がったり、開発が行われたりしたが、なにひとつ実用化できず、こんにちに至っている。いまだにソユーズ宇宙船が使われていることや、今回のソユーズ2ロケットによる初の有人飛行の成功は、見方を変えれば、いかに新型機の開発に失敗し続けてきたかということを示してもいる。

ロシアの宇宙開発は、90年代の財政難から停滞が続いており、技術者の世代交代やノウハウの継承に失敗し、近年もロケットや衛星の失敗が頻発している。現在もなお、ロシアの宇宙予算は少なく、各プロジェクトに遅れや中止が生じている。

フィディラーツィヤもまた、現時点で想定より質量が超過するなどの問題が起きており、今後開発や打ち上げ時期が遅れる可能性はある。イルティーシュも、開発は年単位で遅れ続けている。

ガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行の成功から、来年で60周年を迎えようとしているいま、有人宇宙飛行はスペースXなどの米国企業が主役となりつつある。はたしてこれまでの迷走に終止符を打ち、2020年代もロシアがこの分野において存在感を発揮できるかどうかは、まさにこの数年以内に、これらソユーズの後継機を今度こそ軌道に乗せることができるかどうかにかかっている。

参考文献

https://www.roscosmos.ru/28325/
NASA Astronaut Chris Cassidy, Crewmates Arrive Safely at Space Station | NASA
Russian space agency replaces cosmonauts on next space station crew - Spaceflight Now
Soyuz-2 rocket lifts off with its first crew
PTK NP (PPTS/ACTS) spacecraft