宇宙旅行の実現を目指す、米国企業「ヴァージン・ギャラクティック」は2018年12月14日、開発中の宇宙船「スペースシップツー」による、初の宇宙飛行に成功した。

2004年の同社設立から14年目。幾多の設計変更や開発の遅延、そして試験中の大事故といった悲劇と困難を乗り越え、いよいよ宇宙旅行の実現が迫ってきた。

  • VSSユニティ

    宇宙に向かって飛ぶ「スペースシップツー」の2号機「VSSユニティ」 (C) Virgin Galactic/MarsScientific.com & Trumbull Stadios

宇宙旅行への挑戦

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、2004年に設立された企業で、サー・リチャード・ブランソン率いるヴァージン・グループ傘下の一社である。宇宙旅行の実現を目指し、宇宙船の開発と、そのチケットの販売などを行っている。

同社設立のきっかけは、2004年に民間企業が自力で開発した宇宙船「スペースシップワン(SpaceShipOne)」が、史上初の宇宙飛行に成功したことにさかのぼる。

それまで宇宙飛行といえば、NASAなどの国の機関が、多額の税金を費やして行う国家事業で、宇宙船に乗れるのも、大勢の中から選ばれた宇宙飛行士のみに限られていた。

こうした状況を打破すべく、1996年、民間による宇宙船の開発を目指した「アンサリXプライズ」というコンテストが始まった。これは、民間企業や団体などが、国のお金を一切使わず宇宙船を開発し、3名の人間を乗せて高度100kmの宇宙空間に到達すること、そして2週間以内に2回の宇宙飛行を行うことなどを条件とし、これを達成すれば賞金が与えられるというもので、世界中から26のチームが参戦した。

そして2004年にこの条件をクリアしたのが、米国の航空機設計者バート・ルータン氏と、彼が立ち上げた航空宇宙メーカーのスケールド・コンポジッツが開発したスペースシップワンだった。

  • スペースシップワン

    スケールド・コンポジッツが開発したスペースシップワン。2004年に高度100kmの宇宙に到達した民間初の宇宙船となり、現在のスペースシップツーの基礎となった (C) Scaled Composites

同機がアンサリXプライズで勝利したのを契機に、かねてより宇宙旅行の可能性に目をつけていたブランソン氏は、このスペースシップワンの技術を活かし、本格的な宇宙旅行を実現するため、ヴァージン・ギャラクティックを設立。また翌2005年には、ルータン氏と共同で宇宙船製造会社のザ・スペースシップ・カンパニー(The Spaceship Company)を立ち上げた。

そして、スペースシップワンをそのまま大きくしたような「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」と、それを上空まで運ぶ「ホワイトナイトツー(WhiteKnightTwo)」の開発が始まった。

スペースシップツー

スペースシップツーは、宇宙船と呼ぶには飛行機に近く、しかし飛行機ではなくれっきとした宇宙船という、不思議な形をしている。さらに、それを上空まで運ぶ親機ホワイトナイトツーもまた、双胴機と呼ばれる、2つの胴体をもった不思議な形をしている。

スペースシップツーの全長は18.3m、高さ5.5m、翼長は8.3m。2人のパイロットと6人の乗客、あわせて8人が乗ることができる。

また機体後部には、宇宙まで飛ぶために必要なロケット・モーターが装備されている。「ロケットモーターツー(RocketMotorTwo)」と名づけられたこのモーターは、末端水酸基ポリブタジエンと亜酸化窒素を使うハイブリッド・ロケットで、爆発などの危険性が低く、取り扱いもしやすく、さらに万が一機体にトラブルが起きても燃焼をすぐに停止することができるなど、安全性が高いという特徴をもつ。

スペースシップツーはまず、ホワイトナイトツーに吊るされて上空約5万ft(約15km)へ運ばれ、分離。そこからロケットモーターツーを噴射して上昇し、宇宙空間に到達する。往路はこれでおしまいで、スペース・シャトルや宇宙ステーションのように地球を回る軌道には乗らない。

総飛行時間は約15分、そのうち宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、それでも窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。こうした飛行のことを「サブオービタル飛行」、あるいは「準軌道飛行」と呼ぶ。

その後、スペースシップツーは、主翼の後ろ半分を約60度ほど折り曲げる「フェザー・モード」に移る。これにより、機体を安定させつつ、スピードを抑えながら、安全に降下することができる。ちなみにフェザー(feather)とは羽根という意味で、バドミントンのシャトルが、羽根のおかげで、つねに球の部分を前にして飛ぶのと同じ理屈である。

そして、ある程度降下したところで翼を元の状態に戻し、グライダーのように滑空飛行して、滑走路に着陸する。機体はメンテナンスを受け、先に着陸しているホワイトナイトツーと結合され、新しい乗客を乗せてふたたび飛び立つ。

チケットの金額は25万ドル(約2800万円)で、これまでに500人以上からの申し込みがあるという。

  • スペースシップツーとホワイトナイトツー

    滑走路から飛び立つ、スペースシップツーとホワイトナイトツー (C) Virgin Galactic

設計変更と開発遅延、そして大事故

スペースシップツーは2009年に1号機「VSSエンタープライズ」(VSS Enterprise)が完成し、2010年から試験飛行が始まった。このころ、初の宇宙飛行、そして宇宙旅行の開始は2012年ごろとされていた。

しかし、試験飛行を繰り返す中、2014年にはホワイトナイトツーの主翼に亀裂が入っていることが判明。これにより約半年間、試験飛行が停止した。

同じ2014年には、スペースシップツーに搭載するハイブリッド・ロケットを、外注から自社製に切り替えた。このとき同時に、性能向上を狙って、使用する燃料も変えた。ところが、この新モーターの性能が芳しくなく、2015年にはもともと使っていた燃料に戻すなど、その開発は二転三転した。こうした相次ぐ障害により、開発・試験計画は大きく遅れた。

さらに、悲劇も襲った。スペースシップツーの開発が始まったころの2007年には、ロケット・モーターの試験中に爆発事故が起き、3人が死亡、3人が怪我をしている。この事故はロケット・モーターそのものが爆発したわけではなく、酸化剤タンクに酸化剤の亜酸化窒素を流す試験中に起きたものとされる。

そして2014年10月には、VSSエンタープライズが試験飛行中に空中分解し、墜落。搭乗していた副操縦士のマイケル・アルスベリー氏が死亡し、機長のピーター・シーボルド氏はパラシュートで脱出したものの、重傷を負った。

事故調査を担当した米国国家運輸安全委員会(NTSB)によると、事故は、副操縦士のアルスベリー氏が訓練不足により、フェザーを予定より早い段階で起動してしまい、翼が自然に立ち上がり、やがて負荷に耐えきれずに破壊されたために起きたとしている。そして、同機を開発したスケールド・コンポジッツが、そうしたヒューマン・エラーに対する配慮や対策を十分に行っていなかったことが原因であるとしている。

こうした開発における幾多の障害と、そして大事故により、スペースシップツーの計画は大幅に遅れることになった。