三井化学とちとせグループは10月29日、「事業と人」を同時に育成する新たなオープンイノベーションの取り組み「0to1 プロジェクト」の一環として、新会社「植物ルネサンス」「ティエラポニカ」を設立すると発表した。

新会社はちとせグループが100%出資するが、各社の代表は三井化学の社員がつとめ、2社の事業を軌道に乗せることを目指す。

左からティエラポニカ 代表取締役社長の有富グレディ氏、三井化学 常務執行役員 研究開発本部長の福田伸氏、ちとせグループ最高経営責任者 藤田朋宏氏、植物ルネサンス 代表取締役社長の秀崎友則氏

0→1が得意なベンチャー、千→万が得意な大手

今回の新会社設立に至った「0to1プロジェクト」とは、バイオ技術をベースとした新規事業の立ち上げ(=ゼロをイチにするフェーズ)を強みとするちとせグループが、そのスキルとノウハウの大企業への共有を目指すという取り組みだ。

ちとせグループは、同社が立ち上げたバイオベンチャーで、”食べる藻”の開発を手掛ける「タベルモ」が、産業革新機構と三菱商事による17億円の資金調達に成功したことでも注目を集める。

「0to1 プロジェクト」は、事業拡大のフェーズの内、初期の市場を生み出すことを目指すもの

ちとせグループの最高経営責任者である藤田朋宏氏は、「事業には、0を1にするフェーズ、1を10にするフェーズ、10を千、万にするフェーズがあり、それぞれのフェーズに必要な資金量・人材・組織体制は全く異なる」と語る。

その一方で、三井化学 常務執行役員 研究開発本部長の福田伸氏は「千の事業を万にするよりも、新たに事業を作り出す方が遥かに難しい」とする。両社の得意分野を分担することによって、0からスケールの大きな事業を作り出すのが狙いだ。

植物細胞培養技術の「植物ルネサンス」

新会社のうち植物ルネサンス社は、植物の一部位から幹細胞を誘導し、無限に増殖させる「植物細胞培養技術」を活用することによって、これまで広く利用されていなかった植物を用いた医薬品、化粧品、サプリメントの開発を目指す。

植物ルネサンスでは、植物細胞培養技術を活用することによって、黒字事業の創出を目指す

植物細胞の培養は、三井化学グループの持つ技術シーズ。これまでも長年にわたって展開していた技術で、すでに研究は高いレベルまで成長させられていたが、新会社設立を機に、新たな市場開拓を目指す。

微生物活躍型栽培技術の「ティエラポニカ」

一方のティエラポニカ社は、微生物の働きを最大限に活かすことによって、養液栽培によって有機物を原料とすることを可能とする「微生物活躍型養液栽培技術」を活用。これによって、東南アジアや中東といった肥沃な土壌を作れない地域、さらには建物内での作物栽培を実現する。

ティエラポニカでは、微生物活躍型栽培技術を活用。例えば、地方の特産品(カツオの煮汁など)を利用することによって、その味をまとった野菜の栽培を作ることができるという

これはちとせグループの持つ技術シーズ。すでに大規模な実証実験を行っており、300㎡の温室での野菜の栽培を実現しているそうだ。有富氏は「これから積極的に営業活動をすることでサービスの拡大を図りたい」としており、現状、地方自治体や不動産デベロッパーなどと話し合いを進めている段階とのこと。

大企業が陥りがちな課題をどう回避するか

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、米コンサル企業にて戦略コンサルとして働き、博士号も取得している藤田氏は、「大企業から『新規事業を作りたい』と相談を受けることがあるが、話を聞くと、0→1のフェーズを飛び越え、0→千を想定している場合がほとんど。さらに、『新規チームをつくって新規事業を作る』と言っても、そのノウハウがなく、そこで働く人を”うまく回すこと”が目的になってしまい、本質的な新規事業の推進という目的を忘れてしまいがち」と、大企業の新規事業創出への取り組みに警笛を鳴らす。

また、新規事業が立ち上がってもしばらくは、「手段と目的の混同」「仮説検証のサイクルが遅い」「個人の意思を社会にぶつけさせる仕組みがない」といった課題が生じやすいという。そのため、今回設立する2社の株式はあえて、ちとせグループが100%取得し、ちとせグループのオフィス内に構える。一度、三井化学から離れてビジネスを行ってもらうための仕組みだ。

ちとせグループ 藤田氏

藤田氏は「取り組みを成功させることによって、”日本ならではのオープンイノベーションの起こし方、ベンチャー企業の作り方”を、世の中に見せたい」と展望を語る。立ち上がった市場を広げるのが得意な大企業、小スケールでの市場を作り出すことに強みを持つベンチャー企業が、それぞれの得意分野を補うことによって、新たな市場を作り出す。両社の挑戦は、日本におけるオープンイノベーションの起こし方へ、一つの指針となるかもしれない。

(田中省伍)