シーメンスPLMソフトウェアは、2018年8月28日から30日(米国時間)にかけて米国ボストンで開催した「Siemens Industry Analyst Conference 2018」の中で、今後の同社ソリューションのクラウド対応をさらに進める方針を発表した。これは企業全体またはサプライチェーンも含めた規模でのソリューション展開において、顧客からスピードとフレキシビリティを求める声が高まっていることに応えるものだ。

デジタルイノベーション・プラットフォームをクラウド上で展開

同社CEOトニー・ヘミルガン氏の基調講演の中でも、今後のソリューション開発の方向性としてモジュール化のアプローチ、マイクロサービス化といったクラウド対応について触れられているが、同社副社長(アーキテクチャー担当)のレイモンド・コク氏はもう少し踏み込んで、デジタルイノベーション・プラットフォームをクラウド上で展開すると説明した。

このプラットフォームでは、クラウドインフラの上にコアサービス(PLMシステム、MindSphereなど)がPaaSとして用意されプラットフォーム・サービスとして提供される。その上に機械設計、電気設計、シミュレーション、オートメーションなどのアプリケーション、およびパートナーが提供するアプリケーションがSaaSとして提供される。この考え方でのソリューション開発はすでに進められており、MindSphereやアディティブ・マニュファクチャリング・ネットワークはその一例とのことだ。

  • シーメンスPLMのクラウド戦略を表した図

    シーメンスPLMのクラウド戦略を表した図

アプリケーションの開発、インテグレーションにおいては、最近買収したMendixのソリューションの活用を想定しており、これにより開発が10倍スピードアップするとしている。Mendixをユビキタス・イノベーションに向かうためにキーとなるステップと位置付けているトニー・ヘミルガン氏は「今は(各ビジネスの)ドメインのナレッジとソフトウェア開発者との間にギャップがある。Mendixがその間の橋渡しをする」として、アプリケーション開発における部門間の境界を無くすことを期待している。

アプリケーションを早く、簡単に、をサポートするMendix

MendixはLow-Code開発のプラットフォームで、GUIでモデルを作成してコーディングを行うことなくアプリケーションの開発、インテグレーション、クラウド上での配布、変更、管理を行う機能を提供している。

今後、スマート製品やコネクテッドカーなどが増え、それらが高機能化するにしたがって、製品の中でのソフトウェアの比重が大きくなることが予測される。そうなれば機械や電気の設計者とソフトウェア開発者との間にあるギャップをいかに埋めていくかが競争力のある製品を早く市場投入することにも影響を及ぼしかねない。

「どういうアプリケーションが欲しいかというアイデアがあれば、ソフトウェア開発者でなくてもアプリケーションを簡単に、早く作ることができる」とトニー・ヘミルガン氏は話す。製品開発を包括的にサポートする、そして「境界のないイノベーション」を掲げる同社のソリューションにとって、Mendixが担う役割は大きくなりそうだ。

  • Mendixの概要

SaaS化で深いインテグレーションも早く、容易に

Mendixが最も早く適用されそうな分野は、MindShpereを使ったIoTからデータの収集、分析などのアプリケーション開発だろう。

このユースケースで、どれくらいのスピードアップがなされ、またどのようなイノベーションが実現されるかが注目される。一方でSaaS化を進めている同社製品が出揃ってくれば、システムインテグレーションのやり方も変わってきそうだ。デジタル化で新しいビジネスモデルが登場してくれば、複雑性を増す製品の開発、製造を支える環境を素早く整備できるかは重要な課題となる。

プロセスを理解した上での深いインテグレーションを提供するとしているが、システムが複雑になると開発、展開、アップグレードなどに時間がかかる場合もある。「モジュール化することで継続的なアップグレードを簡単にできるようにしていきたい。クラウドではアップグレードもグローバル規模で容易にできる」とトニー・ヘミルガン氏が語っている。包括的なソリューションであるデジタル・ツインを、顧客が求めるスピーディにフレキシブルに実現する上でも、クラウド戦略は鍵となりそうだ。