東京医科歯科大学(TMDU)は、酸化イリジウムを材料とするマイクロpHセンサを製作し、歯のpHマッピングによるう蝕(虫歯)の定量的検査技術を開発したと発表した。この技術は、保存もしくは切除する場所が明確になるため、「削らない治療」へのサポートとなることが期待される。

  • マイクロpHセンサによるう蝕定量マッピング(出所:東京医科歯科大学ニュースリリース)

    マイクロpHセンサによるう蝕定量マッピング(出所:東京医科歯科大学ニュースリリース)

同研究は、東京医科歯科大学生体材料工学研究所の田畑美幸テニュアトラック助教、宮原裕二教授の研究グループと、 医歯学総合研究科う蝕制御学分野の田上順次教授、北迫勇一助教、歯学部口腔保健学科口腔臨床科学分野の池田正臣講師らとの共同研究によるもので、同研究成果は、3月14日に国際科学誌「Analytical Chemistry」にオンライン版で発表された。

現状、う蝕の診断方法にはX線を用いた画像診断、視診、触診などの方法が採用されているが、これらの診断方法は歯科医師の経験や技術に左右されることもあり、客観的・定量的かつ非侵襲的にう蝕診断を行うことが求められている。しかし、う蝕の進行はバクテリアの活動に由来して歯表層のpHと関連していることが知られているものの、詳細な評価を行うデバイスは未だ開発段階となっていた。

そこで、同研究では、歯科領域で一般的に用いられている歯科用探針に実装することを目的として、小型化・加工性に優れたIr/IrOxワイヤを用いて、室温での理論値(-59.2mV/pH)に近いpH感度-57.5mV/pHを有するセンサを作製した。作製したマイクロIr/IrOx pHセンサは繰り返し測定可能で、使用後のオートクレーブ滅菌も可能であり、臨床使用に耐えうる材料であることも見出された。抜去う蝕歯の表層pH測定を行ったところ、健康な歯根、非進行性う蝕、進行性う蝕はそれぞれ 6.85、6.07、5.30のpH値を有していることが明らかになり、う蝕の進行性を定量的に評価することに成功したという。

今回開発された、直径300μmのマイクロpHセンサは、例えば凹凸や欠損といった歯表層の形態に左右されず直接pH測定を行うことが可能であるだけでなく、染色による目視診断やX線による画像診断では識別できない歯間のう蝕進行性も評価することが可能となっている。pH計測に基づき客観的・定量的かつ非侵襲的にう蝕診断のマッピングを行うことで、保存する場所および機械的に切除する場所が明確になり、「削らない治療」へ向けた歯科医師の診断をサポートするプラットフォームとなることが期待されるということだ。