人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製の論文発表から20年となるのを前に、山中伸弥・京都大学教授が5月27日、東京都内の日本記者クラブで講演した。厚生労働省は3月にiPS細胞を使った2製品の製造販売を条件付きで承認している。こうした成果を受けて山中氏は「臨床開発がここまで来たのは素晴らしいが、ここからが本当の勝負どころ」などと述べた。

山中氏は2006年8月にマウスの細胞からiPS細胞を作製、07年11月にはヒトの細胞でも作製に成功したことに関する論文をそれぞれ発表し、世界的に注目された。12年にはノーベル生理学・医学賞を受賞している。

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    日本記者クラブ(東京都千代田区内幸町)で講演する山中伸弥氏

山中氏は「iPS細胞論文発表から20年~実用化への歩み~」と題して講演を始め、まず画期的成果には一緒に研究した若手研究者や学生らがいたことを強調。小さな研究室から始まり、基礎研究だけでなく患者に届ける応用を使命とした京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を設立して世界的な成果を次々に上げた経緯を紹介した。

そしてヒトの皮膚や血液由来のiPS細胞が神経細胞や心筋細胞、肝細胞、筋肉細胞などになることにより「再生医療」と「薬の開発(創薬)」という2つの医療応用につながると説明。再生医療の説明の中で山中氏は「ある意味タイムマシンのような技術」と強調した。患者が60歳や80歳であってもiPS細胞から作った神経や心臓の細胞はほぼゼロ歳になるからだという。ゼロ歳の細胞を作ると病気になる前の元気な細胞を作り出せる。例えばパーキンソン病の患者からiPS細胞を使って脳の細胞を作り、脳に戻すことにより機能を再生させるという考え方だ。

また創薬については、iPS細胞を大学や製薬会社の研究室で培養することで「目の前で病気になっていく場面を実際に観察できる。病気をテープレコーダーを戻すように再現でき、これが疾患モデルになる」。この疾患モデルを活用して病気の進行を止めたり遅らせたりすることができるという。

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    iPS細胞の塊の顕微鏡画像(山中伸弥氏/京都大学・科学技術振興機構提供)

創薬研究の代表例として筋萎縮性側索硬化症(ALS)研究を紹介した。ALSは運動神経が徐々に死滅する難病だが、長年有効な治療薬がなかった。多くの場合、症状が現われるまで長い時間がかかるのが特徴で経過の治療に向けた観察研究が難しかった。患者由来のiPS細胞から運動神経を作るとシャーレ内で実際に神経細胞が死んでいく現象が短期間で再現できたという。「患者さん由来の運動神経が入ったシャーレを何百も作れるので同時に何百もの薬の効果を試すことができることになった」

山中氏はさらに、国内で15を超える臨床研究や臨床試験(治験)が進行していることを紹介した。具体的には、創薬ではアルツハイマー型認知症、ALS、進行性骨化性線維異形成症(FOP)など。再生医療では、加齢黄斑変性、1型糖尿病、角膜上皮幹細胞疲弊症のほか、頭頸部がんなどのがん治療も対象になっている。

同氏は「20年経って日本はナンバーワンだが、米国や中国がものすごい勢いで再生医療を進めている」「国(の機関や大学)がワンチームになって協力し、いろいろな種類の病気やけがに対する研究開発が同時に進んでいるのが日本の特徴で、強みだ」と指摘した。

その上で趣味とするマラソンに例えて「ようやく中間地点まで来たが、まだ半分ありマラソンは後半がたいへんでゴールが近づくとリタイアする人も増える。私たちも最大限の努力をして後半戦を一生懸命やっていきたい」「米中の競争は熾烈(しれつ)で、今後もオールジャパン体制を維持できるかどうかが最も大切だ」と述べた。

山中氏は2000年代後半から本格的にランニングを始め、10年以上前からフルマラソン大会に市民ランナーとして参加。最近も研究資金を募る目的で国内外の名が知られたフルマラソン大会で走っている。2025年の別府毎日マラソンでは「3時間20分32秒の自己ベストで完走した」と報じられるなど、60代の市民ランナーとしては優れた記録を残している。この日の講演でも4月にロンドンで行われたマラソン大会に参加したことを明かした。

厚労省は3月6日に大阪大学発のベンチャー「クオリプス」(東京都)が開発した虚血性心筋症による重症心不全の患者が対象の「リハート」と、住友化学グループで研究開発型医薬品企業「住友ファーマ」(大阪市)が開発したパーキンソン病患者が対象の「アムシェプリ」を条件付きで承認している。条件付きながらiPS細胞を利用した医薬品の承認は世界初だった。

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    iPS細胞由来の心筋シート(左、心筋シートを紹介する動画から/クオリプス提供)と、住友ファーマが培養したiPS細胞(住友ファーマ提供)

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    山中伸弥氏が講演を記念して記したメッセージ

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