北海道大学(北大)は、「R-Spondin1」と呼ばれる腸の粘膜の細胞を増殖させるタンパク質が、腸内で高い殺菌作用をもつα-ディフェンシン(抗菌ペプチド)を分泌するパネト細胞を増殖させることを発見したと発表した。

同成果は、北海道大学大学院医学研究院血液内科学教室の早瀬英子 助教らによるもの。詳細は実験医学に関する国際科学誌「JournalofExperimentalMedicine」 に掲載された。

ヒトの腸の中には数兆もの細菌が分布しており、この腸内の細菌の集まりは腸内細菌叢と呼ばれ代謝や免疫に重要な役割を担っている。腸はその表面から抗菌ペプチドという物質を分泌することによって腸管内での病原菌の増殖を抑え腸内細菌叢を健康に保っている。 特に小腸を病原菌から守る役割を持つパネト細胞が分泌するα-ディフェンシンという抗菌ペプチドは病原菌に対して高い殺菌作用がある一方、ヒトの体に有益な働きをする共生菌はほとんど殺菌しない。近年、病原菌の異常増殖や有益な共生菌の喪失が、炎症性疾患・アレルギー・がん・肥満などさまざまな病気に関連することが報告されている。

特に骨髄移植などの造血幹細胞移植後では、抗菌ペプチドが減り腸内細菌叢に強い異常が起こり、移植の成功率が低いことが知られている。このことから、腸内細菌叢の異常を予防・治療することはさまざまな疾患の予防や治療につながると考えられている。

腸内細菌叢の異常を改善するためのこれまでの治療戦略はプロバイオティクスや糞便移植といった「有益な菌を投与することによる治療」であり腸管の環境が変化して抗菌ペプチドがなくなってしまうような病気では投与した有益な菌が増殖して効果を出すことは難しい可能性があった。また、病原菌を殺菌するための抗生物質は病原菌と共生菌を区別せずに殺菌してしまうため、腸内細菌叢の異常が悪化してしまう可能性もある。

今回の研究では、α-ディフェンシンが病原菌と共生菌を区別して病原菌のみを殺菌できる特徴に着目。R-Spondin1と呼ばれる腸の粘膜の細胞を増殖させるタンパク質が、α-ディフェンシンを分泌するパネト細胞を増殖させることを発見した。さらに、R-Spondin1の投与によって骨髄移植後の抗菌ペプチド量の低下を改善し腸内細菌叢の異常を予防することができたとしている。加えて、腸内細菌叢の異常の予防効果は抗菌ペプチドであるα-ディフェンシンの経口投与によっても発揮されたという。

なお、研究グループは、今回開発した抗菌ペプチドの増加や補充を利用した治療法は、造血幹細胞移植以外にも糖尿病膠原病アレルギーがんなどの幅広い病気への応用が期待されるとしている。