宅配ネットクリーニングサービス「リネット」を運営するホワイトプラスは2016年10月、クリーニングに出した衣類のためのRFIDトラッキングシステム「エスコートタグ」を富士フイルムイメージングシステムズと共同開発したと発表した。

「エスコートタグ」は、RFIDタグとハンディリーダーを使用し、検品したクリーニング品の現在地を把握することで、衣類がクリーニングのどの工程にあるかを可能にするシステム。まずは10月末より布団の宅配クリーニング「ふとんリネット」で試験運用を開始したが、クリーング品をトラッキングするメリットはどこにあるのだろうか。今回、ホワイトプラスの井下孝之 代表取締役社長に話を伺った。

ホワイトプラスの井下孝之 代表取締役社長

クリーニング品をトラッキングするメリット

「エスコートタグ」はクリーニング品が「いつどこにあるのか」を追跡するシステム。「リネット」ではクリーニング品がどの工程にあるのかという情報はこれまでも収集しており、マイページおよびメールを通じてユーザーに提供してきた。ただし、クリーニング工場内でのプロセスについてはトラッキングできていなかった。

「エスコートタグ」のために開発されたRFIDタグは、従来品と比べて薄くて軽く、柔軟性を有しながら耐水性、仕上げのアイロンやプレスへの耐熱性、業務用ドラム式洗濯機洗浄への耐衝撃性、ドライクリーニングへの耐油性など過酷なクリーニング環境に耐えうる特性を備えている。そのため、クリーニング品質に問題があった場合、それがどのプロセスで発生したか特定し、トラブルシューティングおよびスタッフのスキル向上に役立てられる。

こちらが開発した「エスコートタグ」を構成するRFIDタグ。詳細技術は非公開だが200°Cの環境にも耐えられるという

スタッフのスキル向上はどの業界でも悩みの種だが、クリーニングの場合は業界ならではの課題がある。井下社長によれば、クリーニングで何か問題が発生するとき、その理由で一番多いのはスタッフが洋服の構造を知らないため誤った作業をしてしまうことだという。そのスタッフに洋服の構造を教えれば良いのだが、洋服の種類は多岐にわたるだけでなく、そもそもクリーニング品のトラッキングシステムがないため問題がどこで発生したのかを把握できていなかった。「クリーニングは技術と技能がごっちゃになっている。技能とは個人に依存する暗黙知のこと。(こうしたノウハウが)技能に閉じてしまっていると継承できないし、多くの人に届けられない」(井下社長)。

こうした状況に対し、「エスコートタグ」システムで問題がいつどこで起きたかがわかれば、スタッフごとの細やかな教育が実現し、品質の向上につなげられるというわけだ。

井下社長が目指す"クリーニングの革新"

ホワイトプラスは今回のRFIDタグ導入に限らず、従来から"クリーニングの革新"に取り組んできた企業だ。井下社長は「クリーニングには物流、生産、商品という要素があり、各観点から(クリーニング)を変える」と話す。

例えば"物流"の面を見ると、従来のクリーニングは、衣類をクリーニング店まで持っていく必要があったが、リネットではその必要がないだけでなく、東京都23区ならば深夜0時までクリーニング品を預けることも受け取ることも可能だ(プレミアム会員特典)。「通販業界でもそうだが、宅配便だと、一番遅い枠でも20時には家にいないといけない」(井下社長)。

今回の「エスコートタグ」システムは"生産"、つまり工場内でのクリーニングプロセスの品質向上に向けた取り組みだ。上述したように、ホワイトプラスからするとスタッフのスキルアップに役立つほか、消費者としては透明性が上がることでより安心してサービスを利用できる。また、今後の展望として、依頼内容の途中変更を可能にして利便性をさらに高めたいという。

将来的には次買う服のレコメンドも

同システムをIoTの観点から捉えると、収集したデータの活用法も注目される。クリーニングサービスでは服の種類などを確認する検品と呼ばれる作業を行う。つまり、誰がどんな服を持っているかデータベース化できるということだ。

この点について井下社長はまだ先の話だとしつつ「データが溜まってきたら洋服の摩耗具合からクリーニングのタイミングを知らせたり、買う服をレコメンドできるようにしたい」と展望を明かす。種類・色・形といった服ごとの属性情報とリネットの顧客情報を組み合わせることで、各顧客の服の好みやトレンドを導き出し、洋服の買い替え時期を知らせると同時に次に買う服の提案をする、といった具合だ。

こうしたサービスの実現に向けてはメーカーとの連携が必要となるため、現時点では構想段階だが井下社長は「これからやっていきたい」と意欲的な姿勢を見せる。システム開発は同社の得意とするところであり、IoTを用いた価値創造の事例として今後の展開が期待される。