京都大学(京大)は10月14日、液晶のような特定の向きに整列する新しい種類の超伝導「ネマティック超伝導」を発見したと発表した。

同成果は、京都大学大学院理学研究科 米澤進吾助教、前野悦輝教授、修士課程学生の田尻兼悟氏らの研究グループによるもので、10月11日付けの英国科学誌「Nature Physics」オンライン版に掲載された。

超伝導は、対象性の自発的破れを伴う相転移現象で、たとえば、超伝導になると同時に磁石のような性質も持つようになる「時間反転対称性の破れた」超伝導、超伝導ペアを特徴づける位相という量が特殊な方向変化を持つようになる「p波」「d波」超伝導などがこれまでに見つかっている。しかし、超伝導ペアを組む強さが方向によって変化するような「回転対称性の破れた超伝導」はこれまでに見つかっていなかった。

液晶においては、分子同士が流動性を持ちながらある方向に整列することで回転対称性が破れる「ネマティック状態」が起こる。回転対称性を破った超伝導では超伝導ペアが流動性を持ちながら回転対称性を破るため、液晶ネマティック状態と類似しており、回転対称性の破れた超伝導は「ネマティック超伝導」と近年呼ばれるようになった。ネマティック超伝導はこれまでにない対称性破れを伴った新しい種類の超伝導であり、このようなネマティック超伝導は実在するのか、また実現した場合にどのような性質を持つのかが注目されていた。

今回、同研究グループは、ビスマス-セレン化合物 Bi2Se3の結晶中に銅イオンを挿入したCuxBi2Se3の単結晶試料を用い、超伝導ペアの結合の強さと関係する比熱を、磁場方向を精密に制御しながら測定。この結果、構造的に等価な方向にもかかわらず超伝導ペアを組む強さがそれらの間で異なるネマティック超伝導が実現していることが明らかになった。

同研究グループは今後、ネマティック超伝導の超伝導ペアの強さの方向を外的な方法によってコントロールできることがわかれば、新規な超伝導デバイスへの応用も期待できると説明している。

CuxBi2Se3で発見されたネマティック超伝導の模式図。通常状態では等価だった3つの方向が、超伝導になると超伝導対の強さの強弱によって特別な方向が生じ、ネマティック超伝導となっている