なにが再現実験を難しくしているのか?

そして、最後の「STAP現象の再現はどこが難しいのか」という点。これについては、「今後の検証過程で、詳しく検証をしたうえで、明らかにしていくのが筋」としながら、個人的な見解として、ライブセルイメージングなどの解析から体細胞からSTAP細胞と思われる細胞の塊が形成される7日間には少なくとも4つのステップがあるとする。

1つ目のステップがストレス処理を行った後の1~2日目ころ。いわゆる「サバイバルステップ」で、強いストレスを受けて8割程度の細胞がゆっくりと死亡していき、その後、2割程度の細胞がストレスから回復しつつ生存するという状況である。

2つ目のステップが、2~3日目ころ。ストレスから自己防衛に成功した細胞が小型化し、多能性マーカー(Oct4-GFP)を弱く発するようになる。また逆に分化マーカーの発現は減弱することとなる。

3つ目のステップが、3~5日目ごろ。Oct4-GFP陽性細胞が集合していき、弱い接着を開始し、小さな集合塊を形成する。この様子について、笹井氏は「シャーレの中を活発に動くことがライブセルイメージングにより観察されている」とする。

そして4つ目のステップが5~7日目ごろ。集合塊が大きくなり、Oct4-GFPの発現強度が高くなり、その他の多能性マーカーの発現も強くなる時期であり、これにより多能性が獲得されるとする。

実際の検証では、この7日間でできあがった細胞を検証していくことになるが、何が促進しているのか、阻害しているのかについては部分的にしか判明していないとする。すでに判明している部分については、丹羽氏が中心となって執筆したプロトコールとして公表されているが、「それだけでは完全ではない。やりかたによって、書ききれていないものが存在すると思う。特に第2ステップ、第3ステップで止まってしまう培養も多いことが知られている。生後3週目以降のマウスでは生後1週目のマウスに比べて、発現が止まってしまいやすいというデータもある。そうした解析も含め、論文に記載されている部分、予備的な部分も含め、検証チームにより再現性の高いプロトコルが今後、作成されていくことになると思う」とした。

STAP現象を再現させるために必要となる4つのステップ

また、小保方氏が会見で述べていた「コツのようなものがある」という発現については、「2つのレベルのコツがあると思っている」との見方を示した。1つ目は、論文の作成に取り掛かった最初の2011年時点で小保方氏が最良と思われたプロトコルであり、「本人には気が付いていないが、ハンドリングや微妙な手際など、個人的なコツがある可能性がある」とする。もう1つのコツは、「詳しくは聞いていないが、そこから改良したバージョンが存在する可能性がある」とするが、このいわゆる改良版の2014年バージョンを小保方氏が持っているかどうかについては、あくまで推測であり、何とも言えないとした。

ちなみに第3者の成功については、発表前に少なくとも1名、発表後にも1名が細胞塊ができ、多能性マーカーができる部分まで成功した人がいるということまでは聞いているが、理研の検証としては「次の段階のキメラマウスや奇形種などまで一貫してやらないと意味がない」とした。

今回の会見で、笹井氏は、あくまで当初はアドバイザー的な役割が求められており、それにこたえる形で参加していただけで、実際の根幹となる実験などは若山氏と小保方氏を中心にしていたという回答を何度も行っていた。また、論文のチェックについても、一度若山研時代に投稿しているものについては、若山氏が当然チェックしているものという判断をしており、そこまで詳しく確認をしていなかったとし、そうした複数の研究者が段階ごとに参加していき、混沌とした状態になっていったことが要因の1つとなっていったことを強調していた。

なお、笹井氏は、小保方氏に対し、「こうした事態を避けてあげられなかった自分のアドバイザーとしての力の足りなさを詫びたい」とコメントしている。

笹井氏の会見の様子。会場は数百名の記者、カメラマンなどで埋め尽くされた