理化学研究所(理研)は4月1日、小保方晴子研究ユニットリーダーらが1月に英科学誌「Nature」に発表した「STAP細胞」の論文にかかる一連の疑義に関する最終調査報告が3月31日にまとまったことを受け、その内容を公表した。

発表会場には、調査委員会委員長である石井俊輔氏(理研 石井分子遺伝学研究室 上席研究員)ならびに、調査委員である岩間厚志氏、古関明彦氏、眞貝洋一氏、田賀哲也氏、渡部惇氏が出席し説明にあたった。

今回の調査報告は、3月14日に行った中間報告と同じ、2つの論文における以下の6つの点に対し、理研の規程第2条第2項に規定する「研究不正」が認められるかどうかという点(調査対象は1~5が「Obokata et al., Nature 505:641-647(2014)」、6が「Obokata et al., Nature 505:676-680(2014)」)

  1. Figure 1f(Fig 1f)のd2およびd3の矢印で示された色付きの細胞部分が不自然に見える点
  2. Figure 1iの電気泳動像においてレーン3が挿入されているように見える点
  3. Methodの核型解析に関する記載部分がほかの論文からの盗用であるとの疑い
  4. Methodの核型解析の記述の一部に実際の実験手順とは異なる記述があった点
  5. Figure 2d、2eにおいて画像の取り違えがあった点。また、これらの画像が小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点
  6. Fugire 1b(右端パネル)の胎盤の蛍光画像とFig 2g(下パネル)の胎盤の蛍光画像が極めて類似している点

このうち、(1)と(6)については中間報告の時点で不正ではないという結論が出されていた。残る4つの調査が3月31日まで継続して行われてきた形だが、今回の最終報告では、そこに焦点を当てる形で調査が行われた。

中間報告で継続調査となっていた(2)~(5)までの4つの疑義だが、そのうち、Methods の核型解析(Karyotype analysis)に関する記載部分に盗用の疑いがあった(3)および、実際の実験手順とは異なる記述があった(4)について調査委員会では、(3)については小保方氏がこれを元にした論文を保有していなかったものの、何らかの手法で入手し引用したものであるとの判断はしたものの、同論文ではほかに41個の引用論文の出典を明記しており、逆に引用元を記載していないのはこの1件だけであり、「出典を明記しないで使うことは研究の世界ではありえない」としつつも、核型解析は一般的に行われている解析であり、その手法も一般的であり、小保方氏がその手法を熟知していなかったことからすれば、もともと若山研究室が記述していた簡単なプロトコールの記載を補完する詳細なプロトコールを記載した文章を探したという同氏の説明には一応の説得力があり、かつ探して得た文章が特異なものではなく一般的に行われている実験手順に関するものであったことからすれば、引用した論文の出典について具体的な記憶がなかったとの説明にも一応の合理性が認められるとし、敢えて引用しなかったと言うことはできず、研究不正であったと判断することはできないとした。また、(4)についても、小保方氏が、記載の正当性を実験実施者あるいは若山氏などの共著者に確認せず、また共著者も十分な確認をすることなく、論文の発表に至ったために、実際に行われた実験手法と一部異なる記載がなされたものと認められる。実際に実験も行われていたことを踏まえれば、意図的な不正があったとは考えられないとした。

論文に記載されたMethods部分。赤い部分がコピーされた箇所。青い部分が若山研のスタッフが書いた部分

ただし、こうした記載内容の不正確などについては、若山氏が注意深く論文をチェックしていれば防げたものだとの見方も示した。

残った(2)と(5)についてだが、これらについて、調査委員会は「改ざん」および「ねつ造」による不正があったという判断が下された。

(2)は、2枚の別々に電気泳動されたゲルの写真から、1枚目の写真でクリアでなかったレーンの画像の代わりに、2枚目のクリアな画像を切り貼りしたというもの。この実験は小保方氏が行い、切り貼りも同氏が行ったものであり、同氏の説明通りに調査委員会が2枚目の画像を引きのばして挿し変えるなどの調査を行ったが、供述通りには一致せず、説明を裏付けることはできなかった。ただ、提出された使用などから、画像のレーン1、2、4、5は論文のとおりであること、論文で「Lymphocytes」とラベルされたレーン3はCD45+CD3+Tリンパ球であることが示されたとする。

左が電気泳動像における画像。真ん中(3番目)の画像が、ほかと異なっている様子が見て取れる。右が2枚の別々に電気泳動されたゲルの写真。このレーン4が不鮮明であったため、レーン16の画像を代わりに切り貼りしたという

これらの結果を受け、調査委員会では、「このような行為は研究者を錯覚させる危険性があり、またきれいに見せたいという意図のもとに加工された手順だが、科学的考察と手順を踏まないことは明らかで、改ざんにあたる不正行為をおこなったと判断した」とした。ただし、小保方氏以外の3名については、小保方が論文を投稿する前に、すでに改ざんされた画像を用い、その事実を知らされないで論文を渡されていたことが判明しており、同じ研究をしている仲間を疑ってみなければ見抜けない問題であり、そういった意味では容易に見抜くことはできなかったと判断し、研究不正はなかったと判断したとする。

調査委員会が実際に小保方氏の説明通り、縦方向に拡大をして貼り付けたが、投稿された論文の画像通りにはできなかった

そして(5)は、画像の取り違え、および小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似するという問題。これについては、2月20日の段階で、小保方氏と笹井氏から論文掲載されたものが間違っているものであったという連絡を受けており、関連する資料や正しいデータなどを提出されていたものの、その時点では、当該画像の条件が異なること、学位論文に使われていたということなどは報告されておらず、その後の調査などでそうした問題が発覚したという経緯がある。

2月20日の段階で、正しいデータに挿し変えたいという連絡を受けていた問題の図。この報告直前に、笹井氏が小保方氏に、すでに手元に正確なデータはあったが、新たに正しい正確なデータの取り直しを指示しており、実際に投稿論文の修正画像は2月19日の日付のものが使用されていることも確認されたという

学位論文とNatureに投稿された論文では、機械的ストレスにより得られた細胞と、酸処理によって得られた細胞とまったく異なる条件であるはずなのに、Natureに掲載された論文の画像のグループ化を解除したところ、文字が浮かび上がることが確認され、それが学位論文に掲載されたそのものとは似ているが若干異なることが見て取れたことから、学位論文に酷似した資料を使用したとの判断がなされたとのことで、「データ管理が不正確であり、由来の不確実なデータを科学的な検証と追跡ができない状態のまま投稿論文に使用した可能性があるものの、この画像は、酸処理という汎用性の高い方法でできることを主張する中核的なメッセージであり、この実験条件の違いを小保方氏が認識していなかったとは考えがたい」とし、その実験条件の違いを認識せずに画像を作成したということは納得できないものであることから、ねつ造にあたる研究不正行為を行ったと判断したと説明した。

投稿論文の画像のグループ化を外すと、黒帯で見えなかった部分に文字が存在することが確認された。ただし、この文字は学位論文そのものとは酷似はしているものの、完全に一致しているとは言い難く、類似の資料から選ばれたという結論に至ったとする

また、詳細な手順などが記述されているはずである実験ノートの調査も行ったが、資料として提出されたノートは2010年10月から2012年7月までの1冊と、それ以降の時期に用いられた2冊しかないことが判明。内容としては、実際に論文に使われたサンプルなどの記述などは確認されたものの、詳細な日付がなかったり、断片的な内容を記した記載が多く、第3者が見てもよく分からないものであり、「本人はそこで覚えているということもあるが、正直、こうした断片的な情報でデータの正確性を出せるか」という疑問が残るとする。

ちなみに残りの調査対象者である若山氏、笹井氏、丹羽氏の3名については、若山氏は小保方氏が客員研究員として在籍していた研究室の主宰者であり、また実験を指導する立場でともに研究を行ってきた人物であり、研究の正確性を管理する責任があったと指摘したほか、笹井氏についても今回の論文執筆を実質的に指導する立場にあり、データの正当性と正確性を確認する責任があったと指摘し、両名は直接ねつ造に関与したわけではないが、データの正当性に注意を払えなかったという点で、シニア研究者としての責任は重大であるとした。ただし、丹羽氏については、論文作成の遅い段階で参加したこともあり、一連の不正への関与は認められなかったともした。

なお、調査委員会では、今回の調査結果はあくまで論文に不正があったかどうかを判断するものであり、それがそのままSTAP細胞が存在するかしないかにつながるものではないとしており、中間報告会見でも述べたとおり、研究者コミュニティなどによる科学的な探索の結果により明らかにされるべきであると説明している。