九州大学(九大)は2月13日、加齢血管において薬剤などによる血管拡張作用が減弱する機構を明らかにしたと発表した。

成果は、九大大学院 農学研究院の松井利郎 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2月12日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

松井教授らはこれまで、発酵食品などに含まれる身近な食品成分で、アミノ酸が2つあるいは3つつながった低分子化合物の「ペプチド」を摂取すると、血圧が改善されることをヒトによる試験で明らかにしている。良質のペプチドを摂取することは健康の維持や生活習慣病の予防・改善によいとの報告はあったが、残念ながら、高齢者での摂取を前提とした、加齢と血管拡張作用との関連性、つまり高齢者においても食機能は発揮されるのかどうかについては十分に明らかにされていなかった。

松井教授らは2010年に、これまで種々検討してきた低分子ペプチドの中で、「ジペプチド」を100mg/kg、3カ月間マウスに投与すると大動脈の病変形成が抑えられ、動脈硬化の進展を予防すること報告している。また2012年には、このペプチドは血管平滑筋に存在する「L型カルシウムチャネル」に結合するカルシウムチャネルブロッカーであること、血管に存在するカルシウムチャネルが加齢によって減少するとの新知見も明らかにした(画像1・2)。

画像1・画像2:血管カルシウムチャネル量は加齢(40週齢のラット)によって低下する

従ってこのチャネルを阻害し、血管拡張作用を示す薬剤やペプチドでは、対象となるチャネル量が加齢によって減少するため、薬効効果(例えば、血圧低下作用)が現れない可能性があることを示唆する知見といえるという。なおL型カルシウムチャネルとは、細胞外から細胞内へカルシウムイオンを流入させるチャネルの1種で、血管では血管平滑筋細胞内のカルシウム濃度が上昇すると血管が収縮すること、すなわち血圧が上昇することが知られている。

カルシウムチャネルブロック作用を有する薬剤やペプチドの摂取によって血管力の低下原因の1つである収縮が緩和される(血管拡張作用)と、血管に関わる病気(動脈硬化や高血圧)を防ぐことができる可能性がある。他方、高齢化社会を迎え、機能性食品の効能を期待する高齢者も多いと推察されるが、カルシウムチャネルブロック作用を有するペプチドを含む機能性食品を摂取してもその効果が期待できない可能性もあり、若い(血管機能が健全な)世代からの血管力(血管の伸縮性)の維持(予防)が重要であるといえる。