名古屋大学(名大)は、低身長を呈する難病「軟骨無形成症」に対する根本的治療薬の開発を目的とした既存薬1186種類をスクリーニングした結果、乗り物酔い止め薬として50年以上使用されてきた「メクロジン」に骨伸長促進作用があることを発見したと発表した。

同成果は、同大医学系研究科 整形外科学の石黒直樹 教授、同 鬼頭浩史 准教授、同 松下雅樹 大学院生、同大 神経遺伝情報学の大野欽司 教授らによるもの。詳細は「PLoS ONE」にて掲載された。

軟骨無形成症は、骨の成長抑制因子である「繊維芽増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)」が過剰に活性化されることにより発症し、低身長だけでなく脊柱管狭窄症や大後頭孔狭窄などの重篤な合併症を引き起こすことが知られている。

軟骨無形成症におけるFGFR3の活性を抑える根本的な治療は現在のところなく、低身長に対する対症的な治療としては内科的な「インスリン様成長因子1(insulin-like growth factor-l:IGF-1)」の骨端軟骨に対する伸張作用を生かした成長ホルモン治療か、外科的な骨延長術が行われているが、軟骨無形成症では一般的にはIGF-1の活性低下はないため、成長ホルモン治療では期待される効果を得ることは難しかったほか、外科的な施術の場合、骨を切り取って再生を促し徐々に伸ばしていくため、長期間を要し、かつ合併症の併発など、負担が大きいという課題があった。

こうした状況に対し、近年の研究では、FGFR3シグナルを阻害する複数の低分子化合物を同定することに成功したが、これらの化合物の毒物学的プロファイルは今のところほとんど不明であるため、ヒト投与時の毒性が懸念されることとなっている。また、「C型ナトリウム利尿ペプチド(C-Type natriuretic peptide:CNP)」やCNPアナログがモデル動物に対して有効性が示されているものの、ヒトへの投与方法は未だに確立されていない。

これらの課題に対し研究グループは今回、既存薬の新たな効能探索による適用拡大を目指し、既存薬の網羅的なスクリーニングを実施。その結果、メクロジンの同定に至ったという。実際に、軟骨無形成症の複数の細胞モデルを用いた実験において、メクロジンはCNPと同等にFGFR3の活性を抑制できることが確認されたほか、胎生期のマウスの脛骨を用いたモデルにおいても、骨伸張抑制効果を阻害し、骨伸張能を維持することが確認されたという。これらの成果を受けて研究グループでは、健常なヒトの骨伸張にもFGFR3の関与示されていることから、メクロジンは軟骨無形成症だけでなく、低身長を呈する各種疾患に対して有効となる可能性があるとコメントしている。

なお、軟骨無形成症に対する低身長治療薬としてメクロジンを使用する場合、成長期における長期用途が必要になるという。ただし、メクロジンは酔い止め薬として使われてきたことから、単回投与における安全性は確立しているものの、長期連続投与における安全性を改めて確認する必要があると研究グループでは説明しているほか、有効性に関して、軟骨無形成症のモデル動物にメクロジンを全身投与して、骨伸張効果における至適使用濃度を決定する必要もあるとしており、それらの研究から安全性および有効性が示されれば、軟骨無形成症および類似疾患に対する臨床治験に移行したいとしている。

メクロジンは胎生期のマウスの脛骨を用いたモデルにおいて、骨伸張抑制効果を阻害し、骨伸張能を維持することが確認された